復活のストリート・スライダーズ、夢のような一日
ストリート・スライダーズが復活した。
ぼくにとっては今年いちばんのニュースだ。
ニュースサイトで第一報を見たときは、目を疑った。
メンバーそれぞれが自分の道を進み、再結成は二度とないものと思っていた。
ハリーと蘭丸はときどきJOY-POPS名義でライブを行い、スライダーズの曲を演奏していた。
でもそれはどこか、ストリート・スライダーズという夢のなごりのように思えた。
でも今回はちがう。
スライダーズの4人が集まり、また演奏するのだ。
アナウンスがあってから、SONYのスライダーズのwebサイトにはライブの告知、物販の案内などが次々とアップされた。
夢じゃない。スライダーズが復活する。
2023年5月3日。水曜日。
ぼくは日本武道館にいた。
道順が分からず、JRの御茶ノ水駅から延々と歩く。
よく晴れた5月の午後。
武道館に続く坂道を上るにつれ、同じ方向に向かう、いかにもそれらしいロックファッションの人たちが増え始める。
ブラック・ジーンズ、腰にペイズリー柄のバンダナ。背中にペイントの入ったレザージャケット。ブーツ。缶バッジ。逆立てた髪。サングラス。じゃらじゃらしたアクセサリー。スライダーズのTシャツとタイトなブラックスーツ。
ほとんどは50代から60代だ。白髪と皺。でも何も変わらないファッションで、彼らはスライダーズのライブへと向かっている。
仲間といっしょの人もいれば、一人で黙々と歩いている人もいる。
80年代、90年代を生き延びてきた人たち。
ぼくは彼らを抱きしめたくなる。
チケットはもちろん、ソールドアウト。
ぼくも一時抽選ではチケットが買えず、機材席開放追加チケットをやっとゲットできた。
早めに会場に着いたので物販に立ち寄ったが、Tシャツ類は半分以上がソールドアウト。
会場が開く前にもかかわらず、大勢の人びとが詰めかけている。
みな不安と興奮を押し隠した表情で、落ち着かない様子だ。
会場がオープンし、無数の人びとが武道館の階段を上がっていく。どこまでも途切れないロックファッションの人波が上っていく。
そしてライトが落ち、ライブが始まった。
ダウンテンポのチャンドラーが一曲目。
絡みあう二つのギター。粘るビート。ギターとは対照的にタイトで正確なドラムとベース。
腰だめにギターをかまえる蘭丸。ハスキーなハリーのボーカル。
まさに唯一無二、ストリート・スライダーズのサウンド。
彼らが2023年のいま、ステージに立って名曲の数々を演奏していることが信じられない。これは夢じゃないだろうか。
気がつくとまわりが歌っている。自分も歌っている。
ここ10年ほどは聴いてない曲もあるのに、ふしぎなことに、歌詞もメロディーもぜんぶ憶えている。
エンジェルダスターやペースメーカーを聞いているうちに、数十年の時間が一瞬で吹っ飛ぶ。
ヘッドフォンを耳に押しあて、繰り返し繰り返しスライダーズを聞き続けていたころにタイムスリップする。
感情が高ぶり、ありったけのコインを聞いているうちに涙がこぼれそうになる。
アンコールも含め17曲。
たっぷり2時間のステージだったにもかかわらず、夢のようにあっという間の時間だった。ライブがこんなに短く感じられたのは生まれて初めてだった。
アンコールのあと、立ち去りきれず声援を繰り返すファンたち。
もうこれでスライダーズの4人には会えないのか。
と、客電がつくと同時にステージの四方に巨大な垂れ幕がぶら下がった。
「ザ・ストリート・スライダーズ 秋 ツアーやるゼィ!」
やられたね。
会場の外に出ると同時に、秋のツアーの先行チケット販売のチラシが。
発売開始は終演わずか30分後。急いでチケットを取るしかない。
人波に押されて駅に向かいながら、ふと後ろを振り返ると、武道館の上に満月がかかっていた。
完璧なライブ、完璧な一日。
夢のような日が、もう少し続きそうだ。
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