« プリンタくん、最後の授業 | トップページ | もう一つの自助グループ、スマート・リカバリー »

2017年6月25日 (日)

自分を超えた大きな力なんて信じない

ぼくが主に参加しているミーティングは通常6,7人の小さなグループで、ここ1年できちんとつながっているメンバーは2名程度だ。
ニューカマーは、もちろん来る。来るけれど、定期的にミーティングに参加する仲間は少ない。
先日、あるニューカマーがやってきた。
その日はビッグブックの読み合わせで、ぼくたちは「私たち不可知論者は」を読んでいた。
ニューカマーはすらすらとBBを読み上げ、ぼくは「さすがアメリカ人、英語がうまい」と感心しながら聞いていた。

(ちなみにぼくは、知らない単語は適当にムニャムニャとごまかしながら読んでいる。渡米して以来、英語力はさっぱりだが、ごまかす度胸はだけは身についた)

順番が回ってきたときに、彼女はこう言った。

すばらしい内容だと思う。書いてある内容は、どれももっともだ。
ただ私は、自分を超えた大きな力が自分を変えるなどという話は、信じることができない。
それが依存症を治すだなんて言う話は受け入れられないし、どうかと思う。

言うまでもなくアメリカはキリスト教が浸透している。ウィキペディアによれば、2015年現在アメリカ人の75%がクリスチャンだ。白人に限って言えば、ほぼ全員が何らかの形でキリスト教との関わりがあると思う。
Christianity in the United States - Wikipedia
だけど、それと「自分を超えた大きな力が私たちを健康な心に戻してくれる」ことを「信じる」気になるのとは、やはり隔たりがあるのだろう。

そう言えば昔、誰かが言っていた。アル中がハイヤーパワー概念を嫌うのは、宗教のあるなしとは関係がない。アル中はアル中だから、自分以外のものを信じることができないのだ、と。
そうなのかも知れない。

AAプログラムを受け入れられるかどうかとキリスト教の素養のあるなしとは、きっと関係がない。むしろクリスチャンだからこそ、AAのハイヤーパワー概念を受け入れられない人もいるだろう。
結局のところ、ステップを受け入れられるかどうかは、宗教を超えて、自分を変える決心ができるかどうかなのだと思う。

ニューカマーにとって、AAプログラムを受け入れるべき理由は、山ほどある。医者が勧めた。回復者が大勢いる。科学的疫学的にも効果が証明されている。長い歴史があり、特定の宗教観を押しつけるようなところではないことが分かっている。
反対に、AAプログラムを受け入れない理由も、探せばいくらでもある。こんな宗教じみた集まりには出たくない。他人の経験談を聞いて自分の話をするだけなら、家族や友人で間に合っている。ミーティングに参加する時間がない。そもそもAA自体が信じられない。
そう言った理由の中から何を選び、何を選ばないのかは、やはり本人次第だ。でも、できることならば、一度は試してみて欲しいと思う。

それにしても、「自分を超えた大きな力なんて信じない」とはっきりミーティングで言えるのは、さすがアメリカだ。職場や地域のコミュニティに参加して感じるのは、「自分の意見をはっきり言う」ことはきわめて当たり前、むしろ自分の意見を述べることが大人の責任であり、意思表示すべき場面で意思表示しないことは、どちらかと言えばあまり良くないこと、という考え方だ。
どんな場面でも、真逆の意見が出るのはごく普通だ。でもぶつからない。意見を交換する場面で意見を述べるのは当たり前だろう?という感じ。
だから自分とちがう意見が出ても、別にどうと言うことはない。感情的な対立は生じない。
日本だったら、会議で「場の空気」とちがう意見を言うのは相当に覚悟の要ることだ。
「ハイヤーパワーなんて信じない」とAAミーティングで言っても、完全にOKなのである。ほめられもしない代わりに、誰もぎょっとしない。
こういう風通しの良さは、いいね。

|

« プリンタくん、最後の授業 | トップページ | もう一つの自助グループ、スマート・リカバリー »

コメント

ふと思い返してみると、“ステップとかしたくない”“ビッグブックは読んだこともない”“スポンサーはつけたくない”などの具体的なプログラムへの意見(不満)はよく耳にするものですが、ハイヤーパワー自体に対して“信じない”という意見は悪口も含めてあまり耳にしないなと思いました(私個人の経験なので単にたまたまいなかっただけかもしれませんが)。ビッグブックが嫌いな仲間もハイヤーパワーという言葉はサラリと肯定的に使っていたりします。ここらへんの雰囲気は不思議です。
私は底つきした時はもうすべて信じるつもりになっていましたが、
底つきする前にJSOに電話をかけてAAについて説明してもらった時は
「誰がそんな同病あい憐れむような集まりに行くもんか」と思いました。もちろん口には出しませんでした😝

投稿: ジャビー | 2017年6月27日 (火) 00:00

ジャビーさん

コメントありがとうございます。自分もジャビーさんとほぼ同じ体験です。ハイヤーパワーを信じないとAAミーティングではっきり言われた経験はありません。ですので、今回のミーティングは新鮮でした。
でもニューカマーにとって、ハイヤーパワーやAAプログラムがそう簡単には受け入れれないこと、AAミーティングに参加すること自体に壁があるのは、洋の東西を問わずに同じなんだな、と思いました。「日本でAAメンバーが増えないのは、日本人はキリスト教になじみがないからだ」と言う意見を前に聞いたことがありますが、必ずしもそうとは限らない気がします。

投稿: カオル | 2017年6月27日 (火) 00:50

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 自分を超えた大きな力なんて信じない:

« プリンタくん、最後の授業 | トップページ | もう一つの自助グループ、スマート・リカバリー »