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2017年6月27日 (火)

もう一つの自助グループ、スマート・リカバリー

アメリカはAA発祥の国であり、世界最大のメンバー数を誇る。なにせ、アメリカ1国だけで110万人以上、他国の合計を上回っている。
http://www.aa.org/assets/en_US/smf-53_en.pdf
ニューヨークにはゼネラルサービスオフィスもあるし、活動規模も世界最大だろう。
が、近年はAA以外のアディクション自助グループも台頭してきているようだ。
その一つ、スマート・リカバリー (SMART Recovery)のミーティングに参加してきた。

Self Help Addiction Recovery | SMART Recovery®

スマート・リカバリーとは何か?
一言で言えば、認知行動療法をベースにした、特定のアディクションに特化していない自助グループである。
基本的にはテキストやオンラインツールを使って、飲酒欲求や感情に対するセルフマネジメントの方法を学ぶ。ミーティングは、それを強化するために行われる。
核となるのは4点プログラム。
1.依存行動を止めるためのモチベーションを維持する。
2.衝動への対処法を学ぶ。
3.思考や感覚、行動を管理し、問題解決技能を学ぶ。
4.バランスの取れたライフスタイルを維持する。
この4点を、科学的な知識に基づいて学んでいく。宗教ないしスピリチュアリティといった概念は使わない。参加者はもちろんそう言ったものをたいせつにしてもいいけど、プログラム上は必要ない。
SMART(スマート・リカバリー・プログラムの総称)は自己エンパワメントを強調する。

参加希望者はオンライン(スマート・リカバリーHPかAmazon)でテキストを買い、webでサインアップしてオンライントレーニングを受け、同時に全国各地のミーティングに参加して先輩の話を聞き、自分の話をする。
テキストは10ドル弱で、同じくらいの値段のトレーニングDVDもある。

AAとの類似点
・断酒を目標としている。節酒(ハーム・リダクション)は目標としていない。
・ミーティングは体験談ベースで行われる。参加は自由。
AAとの相違点
・ハイヤーパワー概念を用いない。
・認知行動療法に基づいたテキストブックを使う。
・どんな依存でもOK。自分で止めたいと思う気持ちがあれば参加資格あり。
・献金はなし(どうやって運営しているんだろう?)
特徴
・AAやNAその他、ほかの自助グループメンバーであっても構わない。
・ファシリテーターはAAの司会よりも強く介入する(話に分かりにくいところがあったら説明を求める、個人の話のあとに少しやり取りがあるなど)。
・ファシリテーターは依存症者本人だけど、ファシリテーターになるための、何らかのトレーニングを受けている印象。
・プログラムを学習し終わってミーティングに留まり続けるかどうか、要するに卒業するかどうかは本人次第。
・全米にミーティング会場があり、規模は相当大きい印象。AAを受け入れられない人のオルタナティブ(もう一つの選択肢)としては最大手。

ぼくが参加したのは、自宅から近い某クリニックの談話スペースでのミーティングだ。
参加者にはクリニックの受付の人が駐車券を発行するなど、クリニックとの連携があるようだった。
その日のミーティングは夜7時から。
約20畳ほどの会場に椅子が並べられ、15人ほどのメンバーが集まってくる。
やや遅れて会場に着いたファシリテーターをつかまえ、見学をお願いする。本日のメンバー全員が同意すれば見学してもいいよ、と言われる。
メンバーからはもちろん同意が得られ、末席に座る。ミーティングは90分。
ファシリテーターが簡単なあいさつをして、車座に座ったメンバーを順番に指名していく。
メンバーの話は、AAとさほど変わらない。近況。最近感情的になったこと。家族との摩擦。楽しかったこと。酒やクスリを止めて良かったと思えること。などなど。
話の内容がよく分からなかったり脱線しそうになると、ファシリテーターが話を泊めて簡単な質問を投げかけたりする。また、一人ずつ話の終わりにはファシリテーターのコメントがある。
参加者の依存行動はいろいろだ。いちばん多いのはアルコールだが、薬物も多い。中にはまだ止める決心がついていない、と言う人もいる。少しトロンとした目でやや呂律の回らない人もいた。まだ薬の影響下にあるのだろうか。それでもファシリテーターは退席を求めたりはしないし、ムリに断酒断薬を勧めたりもしない。
予定時間も半ばを過ぎたところで、ある若者に順番が回った。
彼が言うには、自分はまだ高校生だという。だが、クスリによって学業や家族関係にヒビが入ってきた。何とかしないといけないとは思うが、まあ何とかなるだろう、と言うような話だった。
今ひとつまとまりがない。話の落としどころがよく分からない。
すかさずファシリテーターが質問する。何とかする、とは?
まあ、クスリの使いすぎってわけでもないし、ちょっと失敗しただけだと思う。
と言うことは、クスリを止めるつもりは?
ない。上手に付き合えば、これからもクスリを楽しめる。

他の参加者が数名、さっと手を挙げる。場の空気が熱くなってくる。議論だろうか。説教だろうか。
だが、他の参加者が話しはじめたのは、どれもみな自身の体験談だった。

―自分でクスリをコントロールできると思ってても、それは自分が認めなかっただけで、結局はコントロールなんてできなかった。傷が浅いうちになんとかできていれば良かったと、いまだに後悔している。
―この年寄りの話を、悪い見本として使ってくれ。自分はクスリと酒で仕事も家族も失うまで、ぜったいに自分の問題を認められなかった。スマート・リカバリーは良いプログラムだ。すぐに止めるかどうか決めなくてもいいから、また来週来てくれ。

話が説教じみてきたり押しつけがましくなってくると、ファシリテーターが上手にブレーキをかける。
意見を述べたのは二人、それも手短にまとめてもらい、その高校生の順番をさっと終える。この辺、絶妙のタイミングである。多少のフィードバックは必要でも、大人の説教なんて聞かされたらきっと二度とミーティングには来なくなるだろうから。

その高校生は、身なりも話し方も中流以上の家庭の雰囲気だった。腕にはApple Watchが光っている。すぐにクスリを止めるつもりはないにせよ、よくミーティングに来たものだと思う。たいしたものだ。

時間が来ると、ミーティングは「はい、じゃ時間なので」という感じであっさり終わった。
メンバー離れた様子で椅子を片付け、帰って行く。この辺はほかの自助グループと何も変わらない。

終了後、ファシリテーターの方と少し話をした。
彼はもともとアルコールの問題があった。最初はAAに参加していたのだが、家族が厳格なカソリックだったという。AAプログラムはどうしても家族に対するネガティブなイメージがつきまとい、うまく入り込めなかった。なのでスマート・リカバリーを選んだ。いまはもう何年も酒をやめ、こうしてスマート・リカバリーのファシリテーターも行っている。
年齢は50代半ばだろうか。穏やかな口調で話す彼は、なかなかの好人物だった。

ぼくの印象としては、かなり好感触だった。
もちろんぼく自身はAAメンバーだし、ほかの自助グループに鞍替えするつもりは毛頭ない。
でも、依存症から回復したいと思っている人間にとって、選択肢は複数あった方が良いと思う。
ファシリテーターの彼のように、どうしてもスピリチュアリティに関する部分が受け入れられない人もいる。「自分を超えた大きな力が私たちを健康な心に戻してくれる」という考えよりも、「飲酒欲求に対する対処行動を学ぶ」というやり方の方が受け入れやすい人も多いだろう。
スマート・リカバリーは、日本の多くのアディクション医療機関で行っている集団療法プログラムの、拡大版だという気がした。
また、AAやNAとスマート・リカバリーを掛け持ちで参加している人もいる、とも聞いた。
スマート・リカバリーはそれはまったくOKだし、むしろ喜ばしいと思っている。ただ、掛け持ちをやり始めた人の多くは、最終的にはどちらかを選ぶようになる、とも言っていた。まあ、日本でもAAと断酒会、両方行っている人もいるから、それと似たような感じなのだろう。

スマート・リカバリーはアメリカ以外にもカナダ、インド、デンマーク、香港、イギリス、マレーシア、タイ、南アフリカ、メキシコ、ロシア、オーストラリア、ウズベキスタン、スペイン、スウェーデンなど、世界の各国でミーティングを行っている。彼らによれば、世界で2番目に大きい依存症の自助グループであるという(the 2nd largest recovery support group in the world for addiction recovery)。

いずれ日本にも支部ができるのだろうか。
アルコールから薬物、摂食障害からギャンブルまで、スマート・リカバリーは何でもありだ。うまくいけば良い受け皿になるような気がする。反面、運営やファシリテーターはたいへんだろうなとも思う。
いずれにせよ、スマート・リカバリーという新しいムーブメントに期待したい。

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2017年6月25日 (日)

自分を超えた大きな力なんて信じない

ぼくが主に参加しているミーティングは通常6,7人の小さなグループで、ここ1年できちんとつながっているメンバーは2名程度だ。
ニューカマーは、もちろん来る。来るけれど、定期的にミーティングに参加する仲間は少ない。
先日、あるニューカマーがやってきた。
その日はビッグブックの読み合わせで、ぼくたちは「私たち不可知論者は」を読んでいた。
ニューカマーはすらすらとBBを読み上げ、ぼくは「さすがアメリカ人、英語がうまい」と感心しながら聞いていた。

(ちなみにぼくは、知らない単語は適当にムニャムニャとごまかしながら読んでいる。渡米して以来、英語力はさっぱりだが、ごまかす度胸はだけは身についた)

順番が回ってきたときに、彼女はこう言った。

すばらしい内容だと思う。書いてある内容は、どれももっともだ。
ただ私は、自分を超えた大きな力が自分を変えるなどという話は、信じることができない。
それが依存症を治すだなんて言う話は受け入れられないし、どうかと思う。

言うまでもなくアメリカはキリスト教が浸透している。ウィキペディアによれば、2015年現在アメリカ人の75%がクリスチャンだ。白人に限って言えば、ほぼ全員が何らかの形でキリスト教との関わりがあると思う。
Christianity in the United States - Wikipedia
だけど、それと「自分を超えた大きな力が私たちを健康な心に戻してくれる」ことを「信じる」気になるのとは、やはり隔たりがあるのだろう。

そう言えば昔、誰かが言っていた。アル中がハイヤーパワー概念を嫌うのは、宗教のあるなしとは関係がない。アル中はアル中だから、自分以外のものを信じることができないのだ、と。
そうなのかも知れない。

AAプログラムを受け入れられるかどうかとキリスト教の素養のあるなしとは、きっと関係がない。むしろクリスチャンだからこそ、AAのハイヤーパワー概念を受け入れられない人もいるだろう。
結局のところ、ステップを受け入れられるかどうかは、宗教を超えて、自分を変える決心ができるかどうかなのだと思う。

ニューカマーにとって、AAプログラムを受け入れるべき理由は、山ほどある。医者が勧めた。回復者が大勢いる。科学的疫学的にも効果が証明されている。長い歴史があり、特定の宗教観を押しつけるようなところではないことが分かっている。
反対に、AAプログラムを受け入れない理由も、探せばいくらでもある。こんな宗教じみた集まりには出たくない。他人の経験談を聞いて自分の話をするだけなら、家族や友人で間に合っている。ミーティングに参加する時間がない。そもそもAA自体が信じられない。
そう言った理由の中から何を選び、何を選ばないのかは、やはり本人次第だ。でも、できることならば、一度は試してみて欲しいと思う。

それにしても、「自分を超えた大きな力なんて信じない」とはっきりミーティングで言えるのは、さすがアメリカだ。職場や地域のコミュニティに参加して感じるのは、「自分の意見をはっきり言う」ことはきわめて当たり前、むしろ自分の意見を述べることが大人の責任であり、意思表示すべき場面で意思表示しないことは、どちらかと言えばあまり良くないこと、という考え方だ。
どんな場面でも、真逆の意見が出るのはごく普通だ。でもぶつからない。意見を交換する場面で意見を述べるのは当たり前だろう?という感じ。
だから自分とちがう意見が出ても、別にどうと言うことはない。感情的な対立は生じない。
日本だったら、会議で「場の空気」とちがう意見を言うのは相当に覚悟の要ることだ。
「ハイヤーパワーなんて信じない」とAAミーティングで言っても、完全にOKなのである。ほめられもしない代わりに、誰もぎょっとしない。
こういう風通しの良さは、いいね。

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