オーストラリアの古いホテル
もう先週のことになるけれど、オーストラリア最終日の夜。
ぼくたちが泊まっていたのはシドニーの古いホテルだ。よく言えば重厚、悪く言えば陰鬱。
ロビーの分厚いじゅうたんはあらゆる音響を吸い取ってしんとしているし、エレベーターは古い真ちゅうのボタンで、押してもなかなかやってこない。
でも歴史あるホテルらしく、部屋は広くて調度品も重々しいものだった。
最終日の夜。ぼくはひどい寒気に襲われて目が覚めた。
時計に目をやる。午前3時。ひどく寒い。
エアコンを付けっぱなしにしたせいかも知れない。日本、海外問わず、ホテルのエアコンはどうしてこうもややこしいんだろう。うまく操作できたためしがない。
エアコンを切る努力ははなからあきらめて、布団を引き上げて身体を温めようとする。
そのとき。
どこからか子どもの笑い声が聞こえる。
押し殺したような、低くくぐもった笑い声。なにかをささやきあってはクスクスと笑い合う声。
もちろん、シドニーのど真ん中、世界中から観光客が泊まりに来るホテルだ。夜中に子ども連れがチェックインしてもおかしくはない。
そのうち、ドアノブを回すカチャッと言う音が聞こえた。
家族連れが夜中に到着して部屋に入ったのだろう。
ぼくはドアに背中を向けて布団を引き上げる。きょうは日本に帰る日だ。少しでも眠っておかなくっちゃ。
うまく行けばあと3時間ぐらい眠れるかも知れない。
でも、ドアノブを回す音は止まらない。
カチャッ、カチャ。カチャッ、カチャッ、カチャ。
何度もドアノブを回す音。そしてクスクスという笑い声。
向かいの部屋だろうか。いくら旅行だからと言え、夜中にはしゃいでいないで早く寝たらいいのに。
そこでぼくは気がつく。
音の聞こえる方向に、客室はない。
そのホテルは複雑な構造で、曲がりくねった回廊に沿って部屋が並んでいる。ぼくたちの部屋は角部屋だ。
ドアの向こうには、ほかに客室はない。なかったはず。
だとしたら。
音が聞こえる方向には、ぼくの部屋のドアしかない。
寝返りを打てばドアは見える。
ドアノブも容易に見えるはずだ。
でもぼくは寝返りを打てない。どうしてもドアの方を見る気になれない。
ひどい寒さは続いている。
考えてみれば、足音もスーツケースを転がす音も聞こえないのに、どうして子どものくすくす声だけが聞こえてくるんだろう。
ぼくは目を閉じて布団をかぶる。朝が来るのを待つ。隣では妻が寝息を立てている。布団をかぶって、ぎゅっと目を閉じ、いっさいの音が聞こえないように、朝を待つ。
てなことで、はい。
見事に風邪を引きました。
ふしぎなこともあるものですね。
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コメント
お大事にしてくださいませ~
投稿: ひいらぎ | 2015年9月 2日 (水) 12:42
ひいらぎさん
ありがとうございます!ぼくはちょっと風邪かな?くらいだったんですが、妻も風邪を引いてしまい、こちらはなかなかおさまりません。
何か連れて帰ってきちゃったかしら。。。うーんうーん
投稿: カオル | 2015年9月 2日 (水) 12:48
夏は怪談が盛んですが、実体験それも海外でされてしまったのですね。
子供の幽霊は無垢なだけに恐怖も一入です…。
投稿: 優 | 2015年9月 4日 (金) 14:02
優さん
ありがとうございます。なかなか体験できない、背筋の凍る思いをしました。
スーパーナチュラルは信じないですが、それでもやっぱりこういうのは怖いっす((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル
投稿: カオル | 2015年9月 4日 (金) 18:08