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2014年6月30日 (月)

シアトルのAAその3

ジョン・Wとともにリカバリー・カフェに戻る。
16時のミーティングは、いつも30名近くのメンバーが集まるという。果たして、会場に戻ったときは10名以上の仲間が集まっていた。
人種、年齢、性別みなさまざまだが、総じて若い印象だ。日本のAAが40代、50代が中心なのに対し、シアトルのAAは平均年齢が10歳若い印象を持った。ジョン・Wにせよおそらく30代後半から40代はじめといったところだろう。
ミーティングが始まる。今度はジョンではなく、別の仲間がセクレタリだ。さっきまでミーティングを取り仕切っていたジョンは、いまは片隅の椅子に座って一メンバーに徹している。
セクレタリが序文を読み上げる。3章、5章の抜き書き(日本のハンドブックと同じ箇所だ)をフロアメンバーが読む。
シアトル以外から来たメンバーは?
ぼくともう1人が手を上げ、自己紹介をする。日本から来たというと拍手と歓声が沸き上がる。
ソーバーが短い仲間は?
次々と手が上がる。きょうで48時間です。拍手と歓声。きょうで1週間です。拍手。きょうで20日です。拍手。
日本だとソーバーの浅いメンバーはもじもじして手を上げないことが多い。でもさすが米国、自己主張の国。とぎれなく手が上がる。

仲間の話が始まる。
一人が話し終えると、語尾を引き取るように次のメンバーが話し始める。あうんの呼吸と言ったところだ。司会が次のスピーチをうながすことはほとんどない。
内容によっては、みなが話の途中で拍手したり、口笛を鳴らしたり、とにかくポジティブな感情表現が豊かだ。話の内容も明るい話題が多い。もちろん悲惨な内容だってあるんだけど、明るいノリで話すために愁嘆場の雰囲気は皆無だ。この辺、割と暗いノリが多い日本のAAとは大いにちがう部分である。
肝心のスピーチの内容は、聞き取れないことが多くてよく分からなかった。まだまだ英語力が低いのを痛感する。まあ、日本のAAミーティングでも筋がよく分からない話は多いんだけどね。
ぼくも途中で話をする。棚卸しの話と、世界中に自分の行くべきミーティングがあるってのはすばらしいって話。たどたどしい英語だったけど、大きな拍手と喝采を得た。うれしいです。

ミーティングの最後、全員でハンドチェーン。平安の祈りと、Keep Coming Back. It Works, If You Work It. だったかな、を唱える。
献金バスケットに載ったスポンサー一覧表が回ってくるのもさっきと同じ。スポンシー募集者の挙手を募るのも同じ。
日本からのツーリストと言うことでミーティング後にいろいろ話しかけられるかなと思ったが、終了後はみな「じゃ」って感じでさっさと引き上げていった。この辺は日本と同じ。

日本との違いは、全体にダイナミックだと言うこと。
うぉーとかいぇーとか拍手とか、リアクションが豊かだ。全員が黙って下を向いているなんてことはない。また、スピーチの時は大きな声ではっきりと話すメンバーが多い。ソーバーが1ヶ月未満の仲間でもそうだ。国民性か、はたまたAAのスピリットが行き渡っているせいか。
逆に言えば「壊れていない」感じのメンバーが多い。日本だとニューカマーは「ああ、この人はまだお酒が止まったばかりで頭がぼーっとしているんだろうな」って印象を持つことが多いが、シアトルではソーバーの浅い仲間でもそういう印象はなかった。なぜなんだろう?
もうひとつは、スポンサーシップの徹底ぶり。ニューカマーにはこれでもかとスポンサーの案内がある。
壁にスポンサー希望者リストが貼られ、ミーティング半ばでリストがバスケットに入れて回され、最後にスポンシー募集者の挙手があり、セクレタリからニューカマーに個別に声かけがある。
見方を変えれば12番目のステップという目的意識がはっきりしている。

総じて、日本のAAにありがちな「遠慮がち」というムードはなかった。多分に国民性とかアメリカ人ノリの影響も大きいんだろうけど。
でもきっと、「AAは暗いから行きたくない」と言われることはないだろうな。あの明るいノリだったら。

シアトルのAA、あと1回だけ続く。

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2014年6月28日 (土)

シアトルのAAその2

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ジョン・Wのあとをついて日当たりの良い歩道を歩いて行く。シアトルは建物出入り口から7m以上離れて喫煙しなければならない規定があると仕事の関係者から聞いた。3分ほど歩いて、街路樹の大きな一本の下で彼は立ち止まる。良い日陰だ。きっとお気に入りの喫煙場なのだろう。

スポンサーシップについて聞かせて欲しい。あなたはさっきのミーティングでバスケットにスポンサーリスト入れて回し、必要な人は持って行くように話した。壁にも同じリストが張ってある。
あんな風にスポンサーの個人情報をさらして、トラブルが起きないのだろうか?
「トラブル?」
そうトラブル。例えば電話番号を第三者に勝手に渡したりとか。
「第三者に渡されて、何か困ることって?」
えーと。うまい例が思いつかない。考えてみれば、孤独なアル中が見ず知らずのAAメンバーの電話番号を入手して、どんな悪用のしようがあるというのか。考えられるのはナンパ目的に異性に電話をかける可能性くらいだけど、リストは男女別になっていたし。
えーと、たとえば、夜中に酔っ払って「いますぐ病院に連れて行ってくれ」とか。あるいは家族から同じような求めの電話がかかってきたりとか。
「そういうことは、ときどきある」
やっぱりあるんだ。で、どうするの?
「クルマで迎えに行くよ。必要なら病院に連れて行く」
それって迷惑じゃない?
「たしかに、俺のワイフは心配するよ。でも、テキストブックにはこう書いてある。必要ならば、苦しむ人に惜しみなく援助と同情を与えることを、毎日続けなくてはならない。そのために幾晩も眠れなかったり、自分の楽しみごとを大幅に削られたり、仕事が中断されたりすることもあるだろう…」
ジョンはビッグブックの7章の一節をすらすらと引用した。
よどみなくBBを引用し続ける彼の眼を見る。なんの曇りもなかった。背伸びも無理も感じられなかった。ぼくは頭をぶん殴られたような気がした。
この大柄なアフリカンアメリカのAAメンバーは、酔っ払いが夜中に訳の分からないSOSを求めてきても、よろこんでそれに応じると言っているのだ。そのために電話番号をニューカマーに公開することに、なんのおそれも抱いていない。ビッグブックに書いてあることをそのまま愚直に、なんのためらいもなく、ひたすら実践しているのだ。プログラムに生きているのだ。
でもジョン。あなたみたいに覚悟のできているメンバーばかりじゃないだろう?仕事や家庭の都合で、ニューカマーの気まぐれな要請に応えられないメンバーだっているはずだ。
「もちろん。そういうメンバーはリストには載せない。ミーティングの終わりにスポンサー可能であることを告げてもらい、必要ならニューカマーを紹介する。その際に連絡に関する相談をしてもらっているよ」
ここで彼の方から、日本のAAはどうなのかと聞かれ、説明する。
内容は割愛。日本でそこまで連絡先をオープンにしているグループは、自分の知る限りでは存在しないと話した。

ラッパーのようにとぎれなく話し続け、同時にタバコも吸い続ける。タフな男だと思う。
ジョン、もうひとつ聞きたいことがある。霊性についてだ。日本は無神論者の国で、「神」とか「ハイヤーパワー」という言葉に過敏に反応して、ニューカマーがつながらない。みんなAAを宗教だと思うんだ。
神の概念とか霊性(スピリチュアリティ)について、米国のメンバーは抵抗はないの?
「そりゃあるよ。神と言う言葉に反応してかみついてくるヤツはいる」
どうするの?
「簡単だよ。紙を用意するんだ」
紙?
「そう。紙の真ん中に線を引いて、左右2つに分ける。で、ニューカマーに言うんだ。左に『神さま、あるいは宗教っぽいと思うことを書いて』と言う。次に右側を示して『神さま、あるいは宗教っぽくないことをこっちの半分に書いて』って言う」
それから?
「それからこう言う。OK。左に書いたことは、いっさいやらなくていい。だいじょうぶ。右に書いたこと、こっちだけやってくれればいい。あなたが宗教や神に関連していると思うことは、何一つ、いっさい、まったく、やることもないし信じることもない。そう言う」
なるほど。では、スピリチュアリティについては?スピリチュアルであることは、回復の大事な要素なんだけど、それはどうしている?
「簡単だよ」
なぜこんなにとぎれなく話し続けながらタバコも同時に吸えるのか、ぼくには分からない。まるで手品のようだ。それにしても、なんという生き生きした語り口だろう。つい引き込まれてしまう。
「スピリチュアリティってなんだ?概念的なこと、むずかしいことは俺には分からない。たぶん新しい仲間にも分からないだろう。でも俺たちは、新しい仲間に回復を手渡したいと思っている。そのために自分にできることをしたいと思っている。彼らが乗ってこなくても落胆したり恨んだりはしない。少なくともそうしたいと努力している。他人への思いやりを持つこと。心を広く持つこと。心のドアを広く開けておくこと。新しい仲間に話しかけること。謙虚であること。希望を持つこと。ものごとの明るい面を見ようとすること。そういうことなら俺にも理解できるし、新しい仲間にも分かるだろう」
彼は笑う。
「そういう人間の良い部分、それがスピリチュアリティってもんじゃないかな」

ぼくは言葉を失う。
彼の言っていることは、100パーセント正しい。正しいし、分かりやすい。至極まともで筋が通っている。何より、彼は自分の言葉でしゃべっている。12ステッププログラムが彼の中に満ちているのを感じる。頭ではなくハートで語りかけてくるのが分かる。
ありがとう。すごく分かりやすかったよ。
「そう?ところで16時のミーティングが始まるから、そろそろ戻らないと」
彼の言葉を胸に刻み、ぼくとジョンは日当たりの良い舗道を並んでリカバリー・カフェに戻っていった。
まだまだ続く。

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2014年6月26日 (木)

シアトルのAAその1

道に迷いながらたどり着いたのは複雑な交差点の角、Recovery Cafeという場所だ。回復施設らしい。
入り口が分からずにうろうろしていると大柄な黒人男性が声をかけてくれた。そこの裏口から入れという。握手をして先に会場に入る。

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会場はざっと20畳くらい。タイルカーペットの上にキャスター付きの椅子が30席くらい置かれている。片隅にはコーヒーセット、壁には各種イベントの掲示物。棚にはパンフレット類。世界共通のAAミーティング会場である。

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さっきの仲間が掃除仕事を終えて中に入ってきた。名前はジョン・W、このミーティングのセクレタリだと言う。日本から来たというと大いに驚かれ、歓迎された。たまにツーリストのメンバーが訪れることがあるが、日本人は初めてだそうだ。
せっかく来てくれたんだけど、午後の早い時間なのでこのミーティングは7,8人しか集まらない。それでもかまわないか?もちろんかまわない。
ぼちぼち参加者が集まり、ミーティングが始まる。
20代とおぼしき白人の若者が3名。ジョンも含めて長めのソブラエティの仲間が3名。ぼく。ちょうど7名だ。
20代の若者たちはまだ数回目のニューカマーらしい。落ち着かず、しきりに視線を動かしている。
ミーティングが始まる。
序文を読み、3章、5章の冒頭部の読み上げがあり、ミーティングの注意説明が入る。米AAにはハンドブックがないというのは有名な話だが、このミーティングではハンドブックとほぼ同じ箇所を抜き出して読み上げていた。
ハンドブックのあるなしは根本的な問題ではないのだろう。

この日のテーマは「おそれ」。「今日を新たに」のこの日の箇所が、ちょうどそのテーマの部分だった。ニューカマーの3人が分担して、「今日を新たに」の該当箇所を読み上げる。その後各自、そのテーマについて話す。
ニューカマーの3人も、きちんとテーマについて話す。そう言えばこのニューカマーたち、萎縮していない。先ゆく仲間たちやぼくにきちんとあいさつをし、自己紹介をする。テーマに沿って話をする。
この辺、自己主張をする国、自分の意見を意思表示する文化が背景にあるんだろう。米国で出会った人たちは、意見を言うタイミングにはみなきちんと意見を述べていた。

ミーティングの途中でバスケットが回ってくる。
バスケットを回す前に伝統7が読み上げられ、説明が入る。地域でも地区でも全体サービスでもコストがかかっている、われわれの組織は献金で成り立っている。
ぼくは5ドルを入れた。となりに回すと、となりの仲間がバスケットを押し戻してきた。おい、これ5ドルだぞ。いいのか。どうも1ドル前後が相場らしい。ぼくは外国人、気を使ってくれたんだろう。
かまわない、OKだというとうなずいてバスケットを回す。

バスケットの中には、スポンサーリストが入っていた。男女各1枚ずつ、スポンサー可能な仲間の名前と電話番号が書いてあった。
バスケットを回している最中に説明が入る。これはスポンサーシップのリストだ。自由に持って行ってかまわない。壁にも同じものが張ってある。メモするのも紙ごと持って行くのも自由だ。
最後にもう一度、スポンサーシップの説明が入る。ニューカマーの3人に向けて言った言葉だろう。
とにかく電話して欲しい。困ったことがあろうとなかろうと。

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ミーティングはそのまま終わり、ニューカマー3人は帰って行った。誰もスポンサーリストは持って行かなかったしメモも取らなかったが。
このミーティングは1時間。16時から次のミーティングが始まり、こちらはいつも30人ほどが集まるという。もちろんそのまま残ることにする。
いくつか聞きたいことがあったので、思い切ってジョンに聞いてみることにした。
ちょっと聞きたいことがあるんだけど、時間を取ってもらっていいかな。
かまわない。タバコが吸いたいんで外に出よう。
表に出て日の当たるシアトルの歩道を歩く。
つづく。

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2014年6月24日 (火)

シアトルふらりふらり(2)

朝から晩まで忙しくてなかなかブログが書けません。
シアトルは楽しいです。
AAの話はちょっと置いておいて、とりあえずシアトルと言えばこれだよね。

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街のあちこちにジミヘン、ニルヴァーナを見かけます。

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2014年6月20日 (金)

シアトルふらりふらり

仕事の関係でシアトルに来ています。
初の訪米。しかも一人。超キンチョーしています。

飛行機の関係で早めに着いたけど、二日ばかり日程に余裕がある。市内を回ってみることにした。
いやーもう、アメリカはすごいですよ。
シアトル名物その1。ガムの壁。

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なんてことない普通の建物の壁に、一面ガムが貼り付けられている。もちろん一度食べたガムだ。
色とりどりできれいっちゃあきれいなんだけど、すごいねこれ。あたり一面、ガムの甘いにおいが立ちこめている。
訪れる人が次々にガムを貼り付けるため、ますます成長しているそうだ。ガイドブックには「清潔とは言いがたい名所だが」と書いてある。そりゃそうだ。うーん。

名物その2。クラブポットというシーフードレストラン。
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自分でトンカチを叩いてカニを食べるレストランですって。すごいにぎわっている。
自分も並ぼうかと思ったけど、まわりがきゃーきゃー騒いでいる中で一人黙々と木槌を振るうのもイヤなので、そのまま通り過ぎた。

あと、町中にスタバが点在している。コンビニはほとんどない。
日本のコンビニくらいの割合で町中にスタバがある。で、どこも混んでいる。さすがシアトル。スタバ発祥の地。

しかし、異国を一人でフラフラしていると何とも言えない気持ちになるね。ゆっくりできると言えばゆっくりできるんだけど。おっと、仕事の準備もしなくっちゃ。
取りあえずシアトルのAA訪問はあすだな。

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2014年6月16日 (月)

会議はつらいよの巻

休日だが、都内で会議である。
24時間戦うビジネスメェーンには休日もクソもないのである。やるしかないのである。涙も出ないのである。
会議の数日前、シャチョーから指令が届いた。
「スライド係をやるように」
御意。アイアイサー。

複数社の合同会議である。当日、各社代表からパワーポイントファイルを受け取り、上映する。進行に支障があってはたいへんだ。
一人ずつ内容を確認し、議事進行順にファイル名を打ち直す。
にわか仕込みのスライド係なので、レーザーポインタ兼用コントローラが使えない。プレゼンターのアイコンタクトやプレゼンの進行に合わせてスライドを送るしかない。
自分のプレゼンも含め、何とかつつがなく終了。やれやれ。
Macを片付けがてら、ふとギモンが浮かぶ。きょうの議事録はどうなっているんだろう?いつもぼくの役目なんだけど。
ま、指示の出ていない業務のことを考えても仕方がない。本日のミッションは無事終了である。けえるべ。

で、きょう。
シャチョーからお呼びがかかる。

「議事録は、どした」

え?

「議事録、どした」

あ、いえ、あのう。あのう。
こんな時「指示がなかったのでやりませんでした」と、とっさに言えない気弱なワタクシである。サラリィメェンである。歯車である。
さらに言えば「スライド係やるようにっつったの、ダレやん。両方はムリよ」と思っても言えない、弱気なワタクシである。
なんか言った方がいいか。言わない方がいいか。ぐぬぬ。ぐぬぬ。
「…のちほど送ります」
あーあ。

議事録?書きましたよ。ええ書きましたとも。アドレナリンが沸騰して15分で書き上げました。
あれこれ反論するより、すぐ書いた方が早いもん。(´Д⊂グスン。

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2014年6月12日 (木)

一山越しつつ

ガッデムな仕事の山も、少しずつ片付きつつある。
大山その1は越した。あとは大山その2と大中小の山脈を4つくらいこなせば一段落する。たぶん。
量としては総量の1/3くらいしか越していないんだけど、先が見通せてきたのは大きい。気持ちの上でラクになってきた。
あとは英語のプレゼン資料を書いて、パワポを2本くらいまとめれば終わる。たぶん…
あああ、しかし英語はやりっぢぐねぇなー。

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2014年6月 8日 (日)

映画「ディス/コネクト」の衝撃

ネット問題を扱った映画「ディス/コネクト」を見てきた。出色の出来である。カオル的には、今年上半期のナンバーワン・ムービーに推したい。
言っておくが、この映画はまったくスカッとしない。見に行ったのはガンダムUC最終話の上映で盛り上がる横浜のシネコンだった。だが、お祭り騒ぎのアニメファンを横に、この映画を見終わった観客はみな硬い表情で席を立ち、足早に劇場を去って行った。
そういう映画である。
そう、胸に重い課題をもらって家に帰る、そういうたぐいの映画なのである。ベクトルはまったくちがうが、コッポラの地獄の黙示録を見終わったあとのような、名付けようのない感情を抱えることになるのである。

http://dis-connect.jp

この映画は3つのストーリーが重層的に進行する。
ポルノ・チャットで稼ぐ未成年の少年とそれを追う女性ニュースキャスター。
ネットいじめに遭う孤独な少年とその家族。
ネット詐欺の犯人を捜す、絆の壊れかけた夫婦。
キーワードは、インターネット。
別々の3つの物語が別個に進行し、ラストで一気に重なっていく。

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それぞれの物語にサブテーマがあり、サブ・サブテーマがあり、挿話的なエピソードが挟まる。
どの部分を切り取っても深みがあり、ひとつひとつが考えさせられる。

メインになるのはネットいじめの被害に遭う内向的な16歳の少年の話だ。
シガー・ロスが好きな彼はfacebookで見知らぬ少女からフレンド申請をもらうが、それは彼を生け贄に仕立てようとする悪ガキのいたずらだった。
自分と同じ悩みを持つ同志と信じた彼は、少女の正体が悪ガキとも知らず、言われるがままに自分の裸の写真を相手に送る。そしてそれはクラス中にばらまかれ、彼の心はたとえようもなく傷つけられる。
ちなみにこのシーンの描写がとてつもなく上手い。たった一粒の涙で、少年の心が粉々に砕かれるのをよく表している。抑制の効いた演出とはこういうことを言うのだろう。

インターネットは便利なツールだ。
ぼくもこうしてネットで自分を表現できる。ネットを通じて、会ったこともない人と交流ができる。世界中の人たちとコミュニケートできる。
でも同時に、ネットはあまりにも急速に発達したため、ぼくたちはまだその使い方を知らないのだとも思う。
スマホを使って、いまやぼくたちはどこでも写真や動画が撮れる。
バスルームでも、トイレでも、レストランでも、いくらでもプライベートな写真が撮れる。そしてその気になれば、それを瞬時に世界中にばらまくことができる。
それはときに、決定的に他人を傷つけることも可能だ。
世界中の誰とでも手軽にコミュニケートできると言うことは、見知らぬ誰かを傷つけることも容易だと言うことだ。

映画の中のネットいじめは、日本ではあまり起こりえないタイプのように思う。
むしろLINEの既読無視や、ティーンエイジャーがアイスケースの中に入った写真をばらまいた炎上事件のような、より同調圧力を基盤にしたタイプが多い。
Twitterはバカ発見器とネットでは言われている。たしかに炎上した事件は、どれもとても高尚とは言えない。でも、一時の若気の至りが全世界に発信され、ネットの世界に永遠に記録される。
それってどうなんだろう?名前も住所も特定され、学校に匿名の電話やメールが入り、まとめサイトに写真も名前も残り続ける。誰とでもつながれる便利なツールは、そうやって誰かの人生を追い詰めるための使うものなんだろうか?

ディス/コネクトは、「ネットは良くない」というような単細胞な映画ではない。
人と人がつながるとはどういうことなのか?
人が誰かを求めると言うことは?リアルとネットはどうちがうのか?
少年は、自分が愛し、こころを託した相手の正体を知り、命を絶とうとする。それくらい彼は孤独で、誰かを求めていたんだと思う。
ネット詐欺被蓋の夫婦もポルノチャットの少年も、奥底にあるのは孤独感であり、誰かとつながりたいという人間の本能だ。
その感情がある限り、インターネットは今後も広がり続け、成長し続けるだろう。そしてぼくたちが想像もしない形で、新たに傷つく人たちを生み出すだろう。
20年前には想像もつかなかった世界にいるんだと感じる。
ぼくたちがいま住んでいるのはユートピアなんだろうか、それともディストピアなんだろうか。

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2014年6月 2日 (月)

千葉アクアラインマラソン、落選

レースシーズンになってきた。色んな大会があるものである。
その中で、千葉アクアラインマラソンなる大会を発見。

http://chiba-aqualine-marathon.com

海辺を走るのではなく、海の上を走るマラソンである。これは申し込まねば!
…と、勢い込んで申し込みをしたのが4月。
が、待てど暮らせど当落の通知が来ない。
もう一度HPを見てみたら、自分でSPORTS ENTRYのサイトにアクセスして当落を見に行かないといけないらしい。
で、見てみた。

…落選。

ま、ネットでたまたま見かけてたまたま申し込んだ大会である。落ちたところでどうということはない。
どうということはないが、やはり落選という言葉は気持ちの良くないものである。
あーあ。
でも、ま。いい大会を見つけたのはたしか。来年は気合いを入れて早めに申し込むことにしましょう。
海の上を走るチャンスなんて、滅多にないもんね。
いまは日々、仕事を地道にこなし、時間を見つけて走るのみ。

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