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2014年6月28日 (土)

シアトルのAAその2

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ジョン・Wのあとをついて日当たりの良い歩道を歩いて行く。シアトルは建物出入り口から7m以上離れて喫煙しなければならない規定があると仕事の関係者から聞いた。3分ほど歩いて、街路樹の大きな一本の下で彼は立ち止まる。良い日陰だ。きっとお気に入りの喫煙場なのだろう。

スポンサーシップについて聞かせて欲しい。あなたはさっきのミーティングでバスケットにスポンサーリスト入れて回し、必要な人は持って行くように話した。壁にも同じリストが張ってある。
あんな風にスポンサーの個人情報をさらして、トラブルが起きないのだろうか?
「トラブル?」
そうトラブル。例えば電話番号を第三者に勝手に渡したりとか。
「第三者に渡されて、何か困ることって?」
えーと。うまい例が思いつかない。考えてみれば、孤独なアル中が見ず知らずのAAメンバーの電話番号を入手して、どんな悪用のしようがあるというのか。考えられるのはナンパ目的に異性に電話をかける可能性くらいだけど、リストは男女別になっていたし。
えーと、たとえば、夜中に酔っ払って「いますぐ病院に連れて行ってくれ」とか。あるいは家族から同じような求めの電話がかかってきたりとか。
「そういうことは、ときどきある」
やっぱりあるんだ。で、どうするの?
「クルマで迎えに行くよ。必要なら病院に連れて行く」
それって迷惑じゃない?
「たしかに、俺のワイフは心配するよ。でも、テキストブックにはこう書いてある。必要ならば、苦しむ人に惜しみなく援助と同情を与えることを、毎日続けなくてはならない。そのために幾晩も眠れなかったり、自分の楽しみごとを大幅に削られたり、仕事が中断されたりすることもあるだろう…」
ジョンはビッグブックの7章の一節をすらすらと引用した。
よどみなくBBを引用し続ける彼の眼を見る。なんの曇りもなかった。背伸びも無理も感じられなかった。ぼくは頭をぶん殴られたような気がした。
この大柄なアフリカンアメリカのAAメンバーは、酔っ払いが夜中に訳の分からないSOSを求めてきても、よろこんでそれに応じると言っているのだ。そのために電話番号をニューカマーに公開することに、なんのおそれも抱いていない。ビッグブックに書いてあることをそのまま愚直に、なんのためらいもなく、ひたすら実践しているのだ。プログラムに生きているのだ。
でもジョン。あなたみたいに覚悟のできているメンバーばかりじゃないだろう?仕事や家庭の都合で、ニューカマーの気まぐれな要請に応えられないメンバーだっているはずだ。
「もちろん。そういうメンバーはリストには載せない。ミーティングの終わりにスポンサー可能であることを告げてもらい、必要ならニューカマーを紹介する。その際に連絡に関する相談をしてもらっているよ」
ここで彼の方から、日本のAAはどうなのかと聞かれ、説明する。
内容は割愛。日本でそこまで連絡先をオープンにしているグループは、自分の知る限りでは存在しないと話した。

ラッパーのようにとぎれなく話し続け、同時にタバコも吸い続ける。タフな男だと思う。
ジョン、もうひとつ聞きたいことがある。霊性についてだ。日本は無神論者の国で、「神」とか「ハイヤーパワー」という言葉に過敏に反応して、ニューカマーがつながらない。みんなAAを宗教だと思うんだ。
神の概念とか霊性(スピリチュアリティ)について、米国のメンバーは抵抗はないの?
「そりゃあるよ。神と言う言葉に反応してかみついてくるヤツはいる」
どうするの?
「簡単だよ。紙を用意するんだ」
紙?
「そう。紙の真ん中に線を引いて、左右2つに分ける。で、ニューカマーに言うんだ。左に『神さま、あるいは宗教っぽいと思うことを書いて』と言う。次に右側を示して『神さま、あるいは宗教っぽくないことをこっちの半分に書いて』って言う」
それから?
「それからこう言う。OK。左に書いたことは、いっさいやらなくていい。だいじょうぶ。右に書いたこと、こっちだけやってくれればいい。あなたが宗教や神に関連していると思うことは、何一つ、いっさい、まったく、やることもないし信じることもない。そう言う」
なるほど。では、スピリチュアリティについては?スピリチュアルであることは、回復の大事な要素なんだけど、それはどうしている?
「簡単だよ」
なぜこんなにとぎれなく話し続けながらタバコも同時に吸えるのか、ぼくには分からない。まるで手品のようだ。それにしても、なんという生き生きした語り口だろう。つい引き込まれてしまう。
「スピリチュアリティってなんだ?概念的なこと、むずかしいことは俺には分からない。たぶん新しい仲間にも分からないだろう。でも俺たちは、新しい仲間に回復を手渡したいと思っている。そのために自分にできることをしたいと思っている。彼らが乗ってこなくても落胆したり恨んだりはしない。少なくともそうしたいと努力している。他人への思いやりを持つこと。心を広く持つこと。心のドアを広く開けておくこと。新しい仲間に話しかけること。謙虚であること。希望を持つこと。ものごとの明るい面を見ようとすること。そういうことなら俺にも理解できるし、新しい仲間にも分かるだろう」
彼は笑う。
「そういう人間の良い部分、それがスピリチュアリティってもんじゃないかな」

ぼくは言葉を失う。
彼の言っていることは、100パーセント正しい。正しいし、分かりやすい。至極まともで筋が通っている。何より、彼は自分の言葉でしゃべっている。12ステッププログラムが彼の中に満ちているのを感じる。頭ではなくハートで語りかけてくるのが分かる。
ありがとう。すごく分かりやすかったよ。
「そう?ところで16時のミーティングが始まるから、そろそろ戻らないと」
彼の言葉を胸に刻み、ぼくとジョンは日当たりの良い舗道を並んでリカバリー・カフェに戻っていった。
まだまだ続く。

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コメント

やはり、本場のAAメンバーは違うなぁと思ったですね。
いや、このジョンWというAAメンバーが違いますね。
カオルさん、良い出会いですね…
羨ましい(⌒~⌒)

投稿: アポ | 2014年6月28日 (土) 10:49

アポさん

色んなところに足を運べば、さまざまな人、回復のあり方に触れることができます。シアトルのAAは思った以上に収穫でした。

投稿: カオル | 2014年6月28日 (土) 18:34

楽しみにしてました!!

にしても、シンプルに素直にプログラムを生きているんですね。自分を振り返ってみてどうだろうと思いました。

続き、楽しみにしてます。

投稿: とおる | 2014年6月28日 (土) 22:30

とおるさん

シンプルにプログラムに生きる、まさにそのとおりです。そうする必要があることをAAメンバーなら誰しも知っているはずですが、実践できている人は少ない。でも、じっさいにプログラムを生きている人の話は説得力があるし、背伸びしている感じもないし、非常にインスパイアされました。

投稿: カオル | 2014年6月29日 (日) 04:43

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