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2014年3月16日 (日)

スポンシーの死

スポンシーが亡くなった。
ご家族から電話があった。死因を聞き、お悔やみを述べるだけで精いっぱいだった。言葉が出なかった。
まだ30歳の若さだった。

死は、関わったすべての人に衝撃を与える。若者の場合は特に。
正確には元スポンシーと言うべきだろう。ここ数年、連絡は途絶えていた。
電話をもらったとき、ぼくは妻と渋谷の中華料理店にいた。評判の店だったが、電話のあと味はまったく分からなくなった。
ただ彼の、まだあどけなさの残る子どもっぽい表情を思い出すだけだった。

AAに来た当初、彼はAAに過剰な期待を抱いていた。
AAでステップを踏めば、アルコホリズムから回復するだけでなく、人格面でも成長が期待できると担当医師から聞いたという。
過剰な期待を抱いてAAに来るメンバーにありがちなように、彼も結果を急いでいた。一刻も早い回復、一刻も早い社会復帰。
酒で失った人生の失地回復を急いていた。
ぼくは彼に、回復にはそれなりの時間がかかること、12ステッププログラムに取り組むには最初にミーティングに溶け込む必要があること、仲間といっしょに回復の道を歩いて行く必要があることを説明した。
彼はそれを理解したようだが、それでも失ったものをすぐにでも挽回したいという性急な思いは変わらなかったようだ。

次第に彼はミーティングから遠ざかった。でも、12ステッププログラムには取り組みたいという。
ぼくは彼と何度かステップワークを行った。ステップ4まで行ったときにつまずきが起きた。彼は棚卸し表を書くことができなかった。
たぶん、彼にはまだ準備ができていなかったのだとぼくは考えた。
気を落とす必要はない。ぼくも最初の棚卸し表を書いたのは1年のバースデイ近くだったし、その時も苦労した。焦ることはない。ミーティングに出て仲間の話を聞き、自分の振り返りを深めていこう。同時に、AAになじんでいこう。それからまた棚卸し表に取り組もう。

でもやがて、彼はAAから姿を消した。ぼくから彼に連絡を取ることはなかった。忙しさにかまけ、次々にやってくる課題に取り組んでいる内に、次第に彼のことは記憶から薄れていった。

新しく誰かと出会う。やがて関わりが薄くなると次第に記憶から遠ざかる。アドレス帳を開いたとき、何かの拍子でその人のことを思い出す。
元気でやっているだろうか。変わったことはないだろうか。連絡してみようか。
でもそう思うだけで、じっさいに電話したりメールを出したりすることはない。アドレス帳を閉じて数分もすれば、かすかな思いも消えてしまう。
そんな風に、ぼくも彼のことを忘れていった。

家族から電話をもらってしばらくして、ぼくはそのことに気づいて愕然とした。
彼の死はショックだ。でもそれと同じくらい、ぼくが彼のことを忘れていたことにショックを受けた。
電話をすることもメールを出すこともできた。でもぼくはそれをしなかった。

アルコール依存症は死ぬ病気だ。酒をやめていても再飲酒のリスクがあり、うつやパニックなどのメンタルのリスクも一般より高い。飲み続けていればなおさらだ。
知識として知ってはいても、目の前の仲間が死ぬかも知れないとはなかなか考えにくい。目の前の健康そうな若者がひょっとしたら死ぬかも知れないなど、誰が考えるだろう。
あんなに元気そうだったんだから、きっとどこかでうまくやっているよな。ずっとそう思っていた。

いまできるのは、彼の冥福を祈ることだけだ。
彼の魂に安らぎが訪れることを祈っている。iPhotoを開くと、彼といっしょに10マイルのレースに出たときの写真が出てきた。
またいっしょに走ろうと約束したことを憶えている。それが果たされる機会は、もう失われてしまった。
さよなら、Kくん。

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コメント

過去の失敗を悔いるのではなく、その時どうすれば
良かったのかを考え、次の行動に生かしてゆく事。
それがステップの実践だと思ってます。

今度、同じ状況になった時に、より良い行動を選択
出来る事が、亡くなった彼の望んでいる事だと思い
ますよ。

投稿: k | 2014年3月17日 (月) 22:59

kさん

自分に関係する人の死は、なかなか冷静に振り返れません。
彼の冥福を祈るとともに、自己憐憫を手放せるよう祈り続けています。
そうは言っても時間がかかる作業ではあります。
アドバイスありがとう!

投稿: カオル | 2014年3月19日 (水) 21:48

テレビの中で何万人死んでもリアルじゃないの に、仲間の死は凄く心が痛み後悔と悲しみから 抜け出せないでいます… 本人のご家族はもっと悲しい思いをしていると 思います…お父様は「まだ現実じゃなく夢の中 の出来事みたいだ」と言ってました…また「こ んなことになるなら無理させてAA行かせれば よかった」とも言ってました… 最後に「Kのぶんまで生きてください」と言っ てました… 俺は彼と関わった仲間…と言うより一人の人間 として彼とお別れしました… 正直AAプログラムやらステップなんてどうで もよい話しです… やっぱ俺は生きているので感情がしょっちゅう ブレるし泣くし怒るし大声で笑います… もちろん後悔もします…つ~か後悔ばかりです (笑) 彼のぶんは生きれないけど 俺は生き残った、これからの人生を俗っぽく生 きたいと思いました!

投稿: 328 | 2014年3月20日 (木) 14:13

328くん

お別れに行ってきたんですね。
ご家族もさぞつらいご様子だったでしょう。
彼の死を思うとき、必然的に自分はどう生きるかを考えざるを得ません。
生き残ったものはしっかり生きることがたいせつだと思います。
無様だろうが俗っぽかろうが、自分の生き方を自分らしく生きていくこと。
そして、メッセージをほかのアルコホリクに伝えていくこと。

この件についてはまたいずれ話し合いましょう。
お疲れさまでした。

投稿: カオル | 2014年3月23日 (日) 09:01

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