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2013年12月28日 (土)

DSM-5のアルコール依存症

アメリカ精神医学会が定めた精神障害の診断と統計の手引き、DSM。その最新版であるDSM-5が今年2013年に発表された。
日本語訳はまだだが、某所で原本に触れる機会があったので紹介したい。
依存症について、いくつか興味深い点を挙げる。

アルコール依存症のDSM-5診断基準自体は、以下のリンクで読める。

http://psychonote.up.seesaa.net/image/E382A2E383ABE382B3E383BCE383ABE4BDBFE794A8E99A9CE5AEB3DSM-5PNE8A8B3.pdf
診断項目は、なんと11項目もある。
その上、10番と11番はAとBの二つに別れている。うーん、分かりづらい。さらに、11項目中2項目以上でアルコール使用障害と診断。

今回の特徴は、もうひとつの国際診断基準であるICD-10の「有害な使用(harmful use)」に当たる診断がないこと。つまり「アルコール使用障害であるか否か」の二択で、「依存症予備軍」がない。
たとえば「しょっちゅう飲み会で飲み過ぎちゃって、たびたび二日酔いで欠勤するお父さん」は診断基準の1,3,5,7に該当する。診断されてしまう。
従来だったら「あなた飲み過ぎです、依存症予備軍ですよ」と言われたであろうひとが、新しい診断基準だとドンズバ「アルコール使用障害」だ。サザエさんに出てくるマスオさん、アナゴさんはよくへべれけになるまで飲み歩いている。DSM-5で十分にアル中さんである。

それから、断酒期間。
ICD-10だと、診断項目が「過去1年間に以下の項目のうち3項目以上が同時に1ヶ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合」にアルコール依存症と診断される。つまり、1年以上断酒していれば診断には該当しない。
DSM-5では、「同じ12ヵ月の期間内のどこかで2項目以上が出現」とされている。任意の12ヶ月の中で診断基準を満たせば診断可能だ。
では一定期間断酒している人はどうか。これについては特記事項として書いてある。

特記事項
早期寛解:いちどアルコール使用障害の診断に合致した後、3ヶ月から1年未満のあいだ、診断基準に一つも該当していないこと(A4”渇望、飲酒欲求”をのぞく)
持続寛解:いちどアルコール使用障害の診断に合致した後、1年以上診断基準に一つも該当していないこと(A4”渇望、飲酒欲求”をのぞく)

Specify if:
In early remission: After full criteria for alcohol use disorder were previously met, none of the criteria for alcohol use disorder have been met for at least 3 months but for less than 12 months (with the exception that Criterion A4 "Craving, or a strong desire or urge to use alcohol, may be met).

なるほどー。
ICD-10を使えば、ぼくは依存症の診断に入らない。「ぼく、ICD-10だとアル中じゃないんです。もう健常者なんです。てへぺろ」とか言っても差し支えないのである。
一方、DSM-5を使えば、ぼくは「アルコール使用障害、持続寛解」ということになる。
同じ人間の同じ状態が、片方では依存症の診断に当てはまり、もう片方は当てあまらない。興味深いことである。
ちなみにこの「寛解」についてはただし書きがついている。

コントロール環境について
“コントロール環境”とは、以下のごとく寛解にありコントロールされた環境にある場合に適応される。(例:コントロール環境での早期寛解、コントロール環境での持続寛解」
例として、厳重にな監視下にある物質使用不可の監獄や治療共同体、閉鎖病棟など)

“In a controlled environment" applies as a further specifier of remission if the individual is both in remission and in a controlled environment (i.e./ in early remission in a controlled environment or in sustained remission in a controlled environment). Examples of these environments are closely supervised and substance-free jails/ therapeutic communities, and locked hospital units.

閉鎖病棟や監視下の状態でのソブラエティは、ただし書きつきになるということである。まあ、そりゃそうだ。環境の力で達成されたソブラエティは受け身だもんね。

ICDとDSMは、きっとコンセプトがちがうんだろう。
DSMはその名の通り、診断と統計が主眼だ。統計を取る上で、1年以上のソブラエティを外してしまったのではろくなデータにならない。だから何十年やめていても、「アルコール依存症、持続寛解」なのだろう。長期間断酒している人を病気として診断するのは、ちょっと違和感がないでもない。
じゃあICDの方が良いかというと、それもビミョー。自分の場合で言えば、「酒をやめているアル中」というのがじっさいのところだ。飲めばまた元通り、現役のアル中になる。そういう意味では、まるっきりの健常者ではない。
「わーい、週末にビール飲もうっと」とはいかないのである。
そう考えると、DSMの方が良いのかも知れない。ただ、大量飲酒者、依存症予備軍という中間部分を外してしまったのは英断というか、議論の分かれるところだろうね。
しかしこれからのニューカマーは「アルコール依存症の○○です」じゃなくて「アルコール使用障害の○○です」になるのかな。ちょっとインテリ気な感じだな。
うぉーし明日からさっそくオレも「アルコール使用障害のカオルです」で行くぜ!(←バカ者)

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