2013年6月15日と16日の両日、安曇野のBBスタディセミナーに参加した。
去年につづいて二回目の参加だ。安曇野の雄大な自然の中で、BBをテキストに12ステッププログラムをしっかり学んだ。有意義な二日間だった。
前回は参加人数が十数人だったのに対し、今回は30名以上。イベントが着実に定着している印象だ。ぼくは妻とともにクルマで参加。一日目の昼前に到着し、昼食を食べるとすぐにセッション開始。
今回も、主催の仲間がステップ1から3まで、たっぷりと時間をかけて解説をしてくれる。PowerPointを駆使して写真や図表を豊富に提示してくれる。とてもわかりやすい。
ステップ4,5のセクションでは、希望者の事例をその場でライブ棚卸し表にする。解説に事例が加わると、とても理解しやすい。
12ステップはダイナミックな回復の方法だ。ステップ1から3で下地を作り、4と5で自分の過ちの本質を知り、6と7でそれを取り除く。さらに8と9で埋め合わせを進めて過去の対人トラブルをよりよく生きるための原動力に変えていく。10と11でそれを日常生活全般に敷衍して確たるものにし、12で新しい仲間にそれを伝えていく。キーワードはハイヤーパワーであり、無力であり、謙遜である。全体を通じて流れがあり、勢いがあり、短期間で変化を実感できるようになっている。
12ステップはAAの基礎であり、AAがAAであるアイデンティティだ。ほかの自助グループとちがうのは、ステップを通じて回復したメンバーが次の仲間にステップを伝えて行く点である。もしステップが失われたら、AAは病院や保健所によくある各種談話会の別バージョンでしかない。われわれAAメンバーは12ステッププログラムを通じて回復を目指すのが本領なのである。
いつの間にかAAから12ステップがうすれつつある。いつから、どのような経過でうすれていったのかは、よく分からない。日本のAAにはもとからステップが根付いていなかったという意見もある。メンバーの世代間伝播のどこかでステップが途切れたという意見もある。
日本のAAにはもとからステップなんて根付いていなかった、という意見は説得力がある。けど、たとえばみのわマックを支える会から出版されている「ジャン・ミニーの12ステップ」を読めば、少なくともミニー神父は12ステップを理解し、伝えようとしていたことが分かる。
ではどこでどうまちがえたのか。
ぼくは、ビッグブックの分かりにくさが原因のひとつのように思う。
ミニー神父は12ステップを理解し、BBを翻訳した。けど、翻訳されたBBは原文の分かりにくさも手伝って、一読して理解できるものではなかった。訳がこなれてきた最新の版だって、読めば12ステップがすらすらと理解できるというものではない。とくにステップ6、7は記述量が少なく、なにがなんだか分からない。アルコール依存症から回復するためのハウツー本ではなく、道徳書か宗教書のように読めてしまう。酒が止まったばかりの依存症者だったらなおさら頭に入りにくいだろう。
簡便なハンドブックが普及するのと相まって、BB本体は教科書の「発展編・ちからがついたら読んでみよう」みたいな扱いになってしまったのではないだろうか。
またある先ゆく仲間によれば、日本ではBBより12&12が広まっていったのが一因だという。これももっともな話だ。たしかに12&12は章立てされているし、章ごとにステップの内容が区切って記載されている。こちらを使ったステップミーティングが広がっていったのも、12ステップのダイナミズムが失われた一因なのかもしれない。
日本のAAはハンドブックと12&12の二本立て、そのバランスの悪さがいまの状況の基礎になっている。そうじゃない?
そこに先ゆく仲間のナラティブな説法が肉付けとしてほどこされた。誰かが意図的にそうしたということではなく、説得力のありそうなことばが自然にAAに根付いたんだと思う。ダイナミズムの要素を外されたステップは、いろいろおかしなことが起こってくる。
「12ステップをすべて実践したなどと言うのは傲慢のあかし」「埋め合わせは行わず、償いきれない償いの重みを背負っていくのが埋め合わせ」などなど、「じぇじぇっ?!」と目を丸くするような話が出てくる。だってさー。ビルもボブも初期のAAメンバーたちも、すぐにプログラムを実践して酒を止めて、どんどんグループやメンバーを広めていったんだよ。ステップの一個一個に何年もかかっていたわけないじゃん。
ぼくがAAに来た時、よく「AAのプログラム」「回復のプログラム」という言葉を耳にした。それが12ステップのことを指すと知ったのは、ずいぶんあとになってからだ。最初のうちは「ミーティングに来ること」「仲間の話を聞き、自分の話を正直にすること」がプログラムだと思っていた。もちろんどちらもたいせつなことだ。けど、それ自体が目的なんじゃなくて、12ステッププログラムを行うための「方法」だ。目的と方法がごっちゃになっているんである。
ビッグブックのスポンサーシップが出版されたとき、ぼくは日本のAAが変わる予感がした。単体では理解しづらいBBに解説本が加わることで、より12ステップの理解が深まり、本来の回復をするメンバーが爆発的に増えることを期待した。
けど、現状ではそれほど広まっていない。「AAのテキスト以外を使用するのは邪道」「インスタント回復法はAAプログラムに対する冒涜」みたいな、よく分からない反論も聞いた。解説本はBBを理解しアルコホリズムからの回復という結果を手に入れるための「方法」である。どの本を使う使わないは「方法」であって「目的」じゃない。枝葉末節にこだわっても仕方ないのである。
リカバリー・ダイナミクスという言葉は、12ステップの回復が本来保有している、ダイナミックな回復のあり方を示している。12ステップがどれだけダイナミックで、短期間にアルコホリズムからの回復をもたらすかは、AA成年に達するに書いてあるとおりだ。
もちろん、中にはステップを行えない人もいる。知的な能力の問題、個人的な宗教観、ただ気楽に話せる場所がほしいと思うひと、などなど。能力的にも動機的にも12ステップを踏まない、踏めない人もいる。それはそれでかまわない。
また、12ステップに意気込むあまり、ミーティングがステップ進捗状況報告会みたいになるのもつまらない。「ぼく4をやりましたぁ」「わたし10と11に取り組んでいまーす」そういう話だけになっちゃうのも内向きな気がする。けど、12ステップをきちんと理解し、取り組み、ひとに伝える。そう言う経験を持つメンバーが増えれば、AAも変わって行くと思うのである。
今回のセミナーは、2日間の日程の大半を12ステップの説明に費やした。主催の仲間たちは単に説明に終始することなく、豊富な事例を出し、参加者との対話形式を用い、音楽や動画も使い、分かりやすく説明してくれた。12ステップのダイナミズムにふさわしい、ダイナミックな2日間だった。
主催のビッグブック友の会の仲間に感謝である。また来年、お目にかかりましょう。
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