負債が資産に変わる
きのこ帝国のライブを見たあと、夢を見た。
20歳の夢だ。
そのころ、ぼくはひどい失恋をして、外に出ることも、ひとと話すこともできなかった。失恋をハートブレイクと言うけれど、まさに心臓がぶっ壊れたような、ほんとうに胸が痛くて痛くてどうしようもなかった。その苦痛をやわらげるには、酒を飲むしかなかった。アルコールという鎮痛剤だけが、その苦痛を直截に緩和してくれる唯一の処方せんだった。
夢の中でぼくは20歳に戻っていて、当時住んでいたアパートの床に転がり、失恋の苦痛にもがいていた。
目が覚めて夢と知った瞬間、不意に啓示がおとずれた。
「あのとき、あの苦痛を生き延びるために、アルコールは必要だった」んだと。
その不意の感覚は唐突で、圧倒的だった。
ぼくはあれ以来ずっと、アルコール依存症のため、人生のさまざまな場面で後れを取ったと感じていた。
大学を2年留年して、社会人になってからも飲酒問題のためにチャンスを失ってきた。同期たちが順当に階段を上って行く中、おいてけぼりを喰っている感覚があった。もちろんそのことを恥じているわけじゃない。でも、何とも言いようのない引け目を感じ、こころのどこかに引きずっていた。
でも、その夢で気がついた。あのとき、あの状況で、ぼくにはアルコールが必要だった。あの苦痛をやり過ごすにはアルコールの薬理作用が必要だった。もし酒がなければ、自殺を企てるか、もっとひどい状況になっていたかも知れない。
そして依存症になって、そこから回復の道にたどり着いたのも、すべて必要なことだった。ぼくがぼくであるために、必要な過程だった。
ぼくを痛めつけた酒でさえ、生きていくのには必要なものだったんだ。
過去のできごとが、いまの自分に一直線につながっている感覚。
後れを取ったという引け目が消えた感覚。
過去のすべてが必要なことであり、いまの自分の血肉になっている感覚。
過去を悔やむこともなければ、それにふたをしようとも思わないというBBの記述を、実感とした理解した感覚。
きっかけはきのこ帝国だけど(何度も言うようにエポックメイキングな、最高のバンドである)、この気づきをもたらしてくれたのは12ステッププログラムである。
負債が資産に変わる。いままで負債だと思っていたものは、自分が自分になるためのたいせつな資産だった。何か、詰まっていたものがすっきり流れたような気がする。
啓示は訪れたけど、余韻はいずれ消えていく。
気づきを力に変え、生きる糧にしていくために、ぼくにはさらに12ステップと共同体が必要だ。
それにしてもきのこ帝国はいいよね。うんうん。
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コメント
だよね!
あれが有ったからこそ俺は生き残れた。そう思えた時に酒への恨みが消えた気がするね。
問題は酒をコントロール出来ない事なんだよね。
しかし、きのこ帝国も恐るべし!
もう一度ググって、聴いてみます…。
投稿: k | 2013年1月25日 (金) 23:46
kさん
そうなんです。
問題は酒ではなく、酒に飲まれたことなんです。
今回の夢の体験は、まさに「発見!」という感覚でした。
きのこ帝国はいいですよー。
2013年の邦楽で、最大の収穫です。音源もyoutubeにありますから、ぜひ聞いてください。
投稿: カオル | 2013年1月26日 (土) 07:21
いつかそんな日が俺にも来るんですかね~
投稿: とおる | 2013年2月 4日 (月) 09:50
とおるさん
ミーティングに来ていても、ステップをやっていても、あまり変わった気がしない。
でも、続けていれば、いつか「おお!こんな発見が!」と感じる瞬間が訪れます。
ぼくも先行く仲間のそう言う話は半信半疑でしたが、自分が体験すると、なるほどと思います。
その日を楽しみに、プログラムをやっていきましょう^ ^
投稿: カオル | 2013年2月 4日 (月) 16:35