出版バイアス、振り返り
出版バイアス(Publication bias)と言う言葉がある。
世に発表されている論文は、効果があった成功例ばかり報告されている。失敗例の報告はあまりない。そのため、メタ解析(複数の論文を調査して傾向や再解釈などの分析を行うこと)を行うと、ポジティブな方向にバイアスがかかってしまう。
このバイアスを避ける方法はない。他のバイアスを排除しようとしてたくさんの論文や報告を取り入れれば入れるほど、埋もれているたくさんの失敗例を排除している可能性が高まる。
「報告されていない失敗例がたくさんあるかも知れない」可能性を確かめることは、非常に難しい。だって、報告されていないんだから知りようがない。
メタ解析を行う場合は、出版バイアスの可能性を常に考慮し、控えめな結論付けをしていくのが常道である。
以前、自助グループとよく似たある集まりに参加していたことがある。
その集まりも、新しい人がなかなか来ない、定着しないと言う問題に悩まされていた。それでも十数人の固定メンバーはいたのだが。
スタッフミーティングで一度、ぼくは「会のあり方、運営システムに問題があるのではないだろうか」と問題提起した。
リーダーの答えはこうだった。
「現状で、十人以上のメンバーがいる。彼らは現状に満足している。と言うことは、現状には問題がないということだ」
ぼくは納得が行かなかった。ちがうと思った。けど、相手は年齢も上で、地位も格段に高い人だ。それ以上の反論はできなかった。
「いまのやり方に問題がない。なぜなら現状はうまくいっているからだ」と言う理屈は、自己撞着だ。
なぜなら、「やり方が間違っているから伸びない」と言う反証も可能だからだ。方法を間違えているから、もっと人が増えても良いはずなのに、ちっとも増えない。新しい人がつながらない。
「方法に問題がないから現状を維持できている」と言う論法は、見方を変えれば「方法に問題があるから現状程度でしかない」と同義である。
それを確かめるには、出版バイアスの考えと同様、われわれが目にしているのは成功例ばかりだということを認識する必要がある。
AAに来てうまくいった人、AAにつながった人は、誰の目にも分かる。ミーティングに行けばいつでもそこにいる。
でも、AAにつながり切れなかった人、つながったけど去って行った人、何度か来たけれど魅力を感じなかった人。
そう言う人たちは、目に触れない。彼らは口をつぐみ、黙って立ち去るだけだからだ。
うまくいっている人だけで話し合っていると「われわれは問題がない、なぜならわれわれは問題がないからだ」と言う、自己撞着のワナに陥りやすい。
われわれは去って行った人たちに思いを巡らせ、もし機会があればじっさいにたずね、絶えず振り返りを続けて行く必要がある。
もちろん、それでも限界はある。だって、離れていった人の本当の理由は、上手くいった人の側からはまったく想像もつかない場合もあるからだ。
限界があるにせよ、少なくとも自らの限界には自覚的でありたいと思う。自分は、自分たちは間違えているかも知れないという可能性を点検していきたいと思う。
アルコール依存症、82万人。一方、AAと断酒会を合わせても2万人にも満たない。病気の困難さはあるにせよ、伸びしろは山ほどある。
「ぜったい間違ってない」なんてこたぁ、ぜったいないのである。
さて、あすはグループの棚卸しだ。
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コメント
こんばんは、随分涼しくなりましたがそちらは如何でしょうか?
A.A.でステップを行う人で4、5を済ませた後、6、7に入れず
4、5ばかりを繰り返す人が居ます。或いは6、7で自分の欠点は
自分で把握出来る、出来たと思い込む人がいます。
自分では欠点だと思わない、思えない部分に問題がある、有るかもしれない
そう思える柔軟性が人生を上手く生きていく鍵だと思います。
多くの人達に不足して部分だと思いませんか?
多分多くの人達がその部分を理解せず独り善がりのメッセージを
運んでいるのでしょう。
批判は何も産まないという人が居ますが、論議無くしてより良い生産的な関係は
生まれないでしょう。
関係者とも友人としてお互いに議論出来る関係に進めたいと思いませんか?
頑張って下さいね、カオルさんの考え方を支持していますよ。
投稿: k | 2011年9月27日 (火) 21:54
kさん
こちらもだいぶ涼しくなりました。朝晩は寒いくらいです。
考えさせられる内容のコメント、ありがとうございました。
お返事の詳細はきょうのエントリーに書きましたので、ご参照ください。
応援、ありがとうございます。とってもうれしいです(*゚▽゚)ノ
投稿: カオル | 2011年9月28日 (水) 15:03