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2011年4月22日 (金)

福島県放射線健康リスク管理アドバイザー 高村昇先生のお話

2011年04月21日(木)、サンライズもとみやにて、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授、福島県放射線健康リスク管理アドバイザー高村昇先生の話を聞いてきた。
先生は長崎市のご出身で、生まれも育ちも長崎市。40回以上もチェルノブイリを訪れ、調査や診療を行っているという。
今回、放射線の知識を得て、正しく怖がって欲しい、と言う前置きで講演が始まった。
以下、メモ書きを掲載する。



放射線とは?
エックス線、空港の手荷物検査など、生活のさまざまな場面で放射線は使われている。

放射線には、ヒトの役に立つ側面と、ひとの害になる側面と、両面がある。
ヒトの役に立つという側面・・・診断、放射線治療など。
害になる側面・・・原爆など。長崎では7万人が亡くなった。
(ちなみに爆心地から500mのところに長崎大が建てられた)

良い面か害になる面かは、放射線の線量によって決まる。
ひとは普通に生活していても宇宙線など、自然に放射線を浴びる。地上からの距離によっても線量はちがう。飛行機に乗っているだけである程度被曝する。
また、私たちの体内にも放射線物質は存在する。カリウムは食物、筋肉などに存在し、カリウム39は放射線を出さないが、カリウム40は放射性である。
ふつうに生活しているだけで、日本人なら1.5mSv/yを浴びる。
世界的な平均は2.4mSv/y。岩盤のちがい、標高によってもちがう。インド、ブラジルの一部はもっともっと高い。
レントゲン一回あたり0.05mSv。
CT一回あたり5〜10mSv。

単位の話。
焚き火に例えると分かりやすい。日で暖められた空気をひとは温かいと感じる。焚き火を放射性物質、暖められた空気を放射線と考える。その焚き火のエネルギーの単位がベクレル。
放射性物質からベータ線、ガンマ線などの放射線が出る。
放射線の単位がシーベルト。1ミリは1/1000。
1μSvは1/1000mSv。
放射性物質は、放射線を放出して安定した物質になろうとする。

半減期は、ヨウ素131が8日。セシウム137が30年。
しかしセシウムは土の表面に溜まり川、海に拡散する。梅雨など、日本は雨が多く、いつまでも土には溜まらない。また、表土を取り除くなどで対策は可能。
また、生物学的半減期と言うものがあり、セシウムを摂取しても代謝されて尿として排泄される。
生物学的半減期は2ヶ月。⇔物理学的半減期と区別。

外部被曝⇔内部被曝
内部被曝は、食べ物、水、牛乳などで放射性物質を体内に取り込む。たとえばチェルノブイリでは、汚染された食品を規制せずに市民が食べた結果、甲状腺癌が増えた。とくに牛乳を子どもが飲み、のちに甲状腺癌になった。

日本は厳しい基準で規制している。

外部被曝は高い線量でないと症状が出ない。気をつけるべきは内部被曝。
チェルノブイリでは当時0歳〜5歳の子どもが、後に甲状腺癌に罹病。
40歳以上ではのちの発症率に有意差なし。
放射線感受性と言うものがあり、子ども、胎児は感受性が高い一方、40歳以上はリスクがない。
→よって、まず守るべきは母と子ども。

1mSv:細胞一個の染色体を傷つける単位、と考えると分かりやすい。
人間の体には自己修復機能がある。一度に1ミリSvを浴びても、自己修復機能が働いてほぼ問題ない。
100mSv/回から修復が効かない細胞が出てくる。ただ、大勢のひとが同時に100mSvを浴びても、全員が健康に問題が発生するわけではない。そのうちの何人かに問題が発生する。
少ない線量で長期なら、自己修復が働く。

現在、国の基準値はとても厳しい数字。
ICRPの勧告?によれば、100mSv以下の被曝は、中絶の正当な理由にならない、と定めている。

質問

農地と校庭で基準値がちがう。不安だ。
→農地と校庭は用地としての性格が違う以上、基準値がちがうのはやむを得ない。

ほこりが巻き上がると内部被曝になるのか?→なりうる。あまりほこりが激しい日は外での活動(部活など)は避けた方が良い。現在の規制値は、あくまで外部被曝の線量であり、内部被曝の線量を含んでいない。しかし、現在は厳しい基準であり、あまりセンシティブになる必要はない。

家庭菜園で食べているものはどうなるのか?
→家庭菜園の食品も、マーケットのデータと同じく対応。母と子を守る、と言う観点をもつこと。

※ちなみに、福島とチェルノブイリを同列に扱う報道もあるが、福島の放出した放射性物質の量はチェルノブイリの7%。

いくつかの食品を食べたり、空気を吸ったり、複数の経路で複合的に内部被曝量が高くなるのではないか?
→規制値は、食品群ごとに定められ、複合して摂取しても大丈夫な値に設定されている。かなり安全につくってある。しかも現在は数値も低下しつつある。それぞれの食品などの数値が、基準値を下回っていればだいじょうぶだ。

ストロンチウムが観測されているがだいじょうぶか?
→数値が低いので、現時点ではだいじょうぶ。引き続きモニタリングを行って、数字に気をつけていくこと。

保育所に勤めているが、いつになったら窓を開けたりエアコンをつけたり洗濯ものを干せるようになるのか?
→現時点の本宮ではだいじょうぶ。気になるのなら、洗濯ものや布団類は、部屋に取り込む際にほこりを叩いたり払ったりすること。

ため池に貯めた水はだいじょうぶか?底の方に放射性物質が溜まるのではないか?
→測ってみないと分からない。

(メモここまで)



あえて要点をまとめず、メモをそのまま掲示した。
高村先生の話で安心できたのは、生物学的半減期の話。
体内被曝や食物連鎖による濃縮の話は聞いたことがあったが、生物学的半減期の話は初めてだった。調べてみた限り、高村先生の話は偏っていない、まともで常識的な話だ。
現在の放射線量なら、半減期30年のセシウムも怖くない。
2ヶ月で体内からウォッシュアウトされ、蓄積しない。
相変わらずセンセーショナルな話も見聞きするが、高村先生の話はその不安を吹き飛ばす、正しい知識とデータに基づく、信頼しうる話であった。
先生は県内中を回って講演活動を続けている。頭が下がる。それでもTVや週刊誌のセンセーショナルな話の方が広がりやすいんだから、マスメディアおそるべし。
伝聞情報ではなく、正しい情報って大事だね。

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コメント

先生 すごいですよね
「ぬらしたタオルを口と鼻にあてたら窒息します!」
の発言でいっきにファンになりました。
直接お話を聞きたいです。

投稿: ボンジ | 2011年4月22日 (金) 21:18

bonziさん

おお、そんなギャグをかました講演会もあったんですね。
今回も、ちょっと綾小路公麻呂風のネタが入り、場内に笑いが出ました。
ぼくより若いのに、見事なステージングに感服しました。
ためになるし、機会があればぜひ講演を聞くことをオススメします。

投稿: カオル | 2011年4月22日 (金) 22:48

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