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2009年9月 8日 (火)

猫を弔う

ラウンドアップ当日の朝。いつものようにジョギングに出かけた。
走り始めたのが少し遅い時間で、気温は高くなってきていた。アパートまであと2キロ弱の地点で、猫が歩いているのに気づいた。
猫なんて別に珍しくもない。が、なんだか様子が変だった。歩き方がおかしい。いやにゆっくりしていて、前足と後ろ足のリズムが合ってない。体が揺れている。
猫に遭遇するとたいがいはさっと草むらに隠れて、そっとこっちをのぞくものだ。
それなのに近づいてもまったく気がつかない様子で、逃げようともしない。ひたすら歩き続けている。
不思議に思っているうちに,とうとう追いついてしまった。
顔をのぞいてみる。明るい茶毛の若い猫だ。2、3才か。
右耳に大きなかさぶたが出来ている。右目に目脂がこびりついている。
それよりも、異様に痩せているのに驚いた。お腹の左右がくっつきそうなくらいだ。
ケガをしていて、栄養失調寸前。
猫の進む方向に人家はない。田んぼと炎天の国道バイパスがあるだけだ。

このまま放っておいたら死ぬな。コイツ。
そう思った。
「おい」と声をかけてみる。にゃあ、と、かぼそい返事が返ってきた。
足を引きずりながらも、猫はまっすぐに歩いて行く。こびない。ぼくのことなどまるで意に介さないようだ。
前に回って目をのぞき込む。口の周りもケガをしている。ちらとこちらを見るが、邪魔だと言わんばかりにまっすぐ歩いて行こうとする。
首輪が見えた。飼い猫だ。飼い猫がケガをして痩せ細ってこんなところを歩いている。尋常じゃない。捨てられたに違いない。餌を獲るスキルもなく、飢えるしかなかったのだろう。
自分を捨てた飼い主を、家を求めて歩き続けているのだろうか。炎天の先に人家なんてないのに。
死んじまうぞ。

気がついたら猫を抱き上げていた。
これから宿泊イベントなのに、どうするんだオレ。じき仲間と待ち合わせの時間だ。妻は仕事で夕方まで帰らない。
それでも猫を見捨てることは、どうしてもできなかった。
抱き上げた猫はあらがう気力もなく、腕の中でグッタリしていた。連れて帰る途中、何度かにゃあ、と鳴いた。

アパートに連れて帰り、牛乳を飲ませた。これが良くなかったのかも知れない。
猫は休み休み、うずくまりながら牛乳を飲んだ。
猫を置いて一度仲間との合流地点に行き、事情を話した。別の仲間が一晩面倒を見てくれることが決まり、いっしょにアパートに戻った。
アパートの鍵を開けると、姿が見えない。あわてて探すと、ぼくがいつも座っている座布団の上で丸くなっていた。安心したのか、無防備な姿で眠っている。その姿を見たら何とも言えない気持ちになった。

イベント中、例によってiPhoneはつながらなかった。
猫のことが気がかりだったが、仲間に任せる以外方法がない。
一夜明けて急ぐ途中、猫が死んだ、とメールが入った。

缶詰を少し食べただけで水も飲まないので、仲間はそうとう心配したらしい。
明け方まで息をしていたが、朝になったら呼吸が止まっていたそうだ。
仲間のアパートに急ぐ。
もう冷たくなって、体が硬くなっていた。痩せ細ったままだった。

申し訳なさそうな顔の仲間に礼を言って、猫の亡きがらを引き取った。
仲間は何も言わず、黙ってスコップを貸してくれた。
妻に電話して、猫が亡くなったことを伝えた。妻は猫が飼えると思って心待ちにしていたようだ。
ふたりで猫の亡きがらをもう一度見る。明るい茶色の毛並み。
そっと目を閉じ、眠っているように見えた。
ぼくの座布団で丸まっていたときのように。

気乗りしなかったが、妻の提案で警察に連絡をした。
迷い猫の届け出は出ていないという。亡きがらをどうしたらいいか教えてほしいと頼んだが、自分で考えてくれ、と言われた。敷地に余裕があれば庭に埋めてはどうか、とも言われた。けどあいにくアパート暮らしで、庭なんて付いてない。

日暮れが近づくのを待って、小高い丘の雑木林に出かけた。
ここなら見晴らしがいい。運が良ければ夕陽も見えるだろう。
スコップをふるって、妻と交代で穴を掘った。土は固くて木の根だらけで、あっという間に汗だくになった。
いつの間にか日が落ちて,辺りは暗くなっていた。
タオルにくるんだ方がいいんじゃないかと妻は言うが、ぼくは首を横に振った。なるべく早く土に返してあげた方がいい。

墓標は立てなかった。
首輪も付けたままにしておいた。
陽炎のアスファルトを歩く猫の後ろ姿が目に焼き付いていた。
目も見えず、耳も聞こえなくなっていただろう。
それでも何かを探して、まっすぐ前に進むことをやめなかった。
よろよろに死にかけているのに、歩みを止めなかった。
そう言えば頭はしっかりと上げて、前を見ていたっけ。
弔いの言葉をつぶやいて、真っ暗になった雑木林の道を戻った。

誇り高い猫。
あれから二日。激しい炎天と陽炎、夏草、アスファルト、茶色い猫。蝉の声。
いまも風景が焼き付いたままだ。

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コメント

うまくいえないけど、いずれ、また会う日もあるとおもう。
その時は多分元気な姿で生まれ変わってると思う。

なくなるまえに、カオルさんのトコにこれて、よかったって思ってるよ。ネコちゃんは。
コレは絶対。

投稿: otama | 2009年9月 8日 (火) 23:40

otamaさん

ありがとう。
そう言っていただけると気が休まります。
ふしぎですね、ぼくもきょう同じようなことを考えていました。
またいずれ、会えるんじゃないかって。
そのときはきっと、お互いに気づくんじゃないかと思います。
ありがとう!

投稿: カオル | 2009年9月 8日 (火) 23:51

少し位身体に障害や病気があってもなんて事無く生活している犬や猫を見ていると、少々の痛みや将来への不安を訴えて騒いでいる人間と言う生き物を見ると情けなくなります。
明日はうちの犬の手術です。簡単ですが一応麻酔をするので心配です。
2年前は実家の2匹続けて犬が亡くなり、そういう時はいつも自分が呼ばれます。
逢瀬の焼却場へ運ぶのがこの市の決まりですが、気分はまるで映画「蝉しぐれ」
元気だった頃の思い出にふけながら1人と1体でドライブします。
焼却場の係りの人も一緒に合掌してくれます。
こういう公務に携わるひとはもっと大事にして欲しいです。
感謝、合掌
うちの子ももう10歳を過ぎました。
また蝉しぐれが近づいています。

投稿: 盆爺 | 2009年9月 9日 (水) 21:22

bonziさん

ありがとうございます。
感謝、合掌。そうですね。動物の死に接すると、命についてあらためて考えさせられます。
逢瀬の焼却場のこと、教えてくれてありがとうございます。初めて知りました。
この次はルールを守ります。新さくら通りの突き当たりのところでしたよね、確か。
バナナちゃん、きょう手術なんですね。どうか無事に成功しますよう、祈っています。

投稿: カオル | 2009年9月10日 (木) 14:32

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