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2008年1月23日 (水)

鍛冶屋の修業

本社の人事委員会に選ばれた。
ぼくの職場は不思議なところで、本部と支社は直接の関係はない。各支社はそれぞれ独立している。本部は元締めみたいなもんだ。

イメージとしては鍛冶屋の寄り合いみたいなものだろうか。
鍛冶屋はそれぞれ自分の店で、それぞれ工夫を凝らして刀や工具を作っている。元締めは元締めで、ほかの鍛冶屋と同じく店を構えている。でも基本的にはどの鍛冶屋も元締めの流儀に乗っ取って仕事をしている。新入りの鍛冶職人は、まず元締めの親方のところで基本をたたき込まれる。それから「オメェは二郎親方のところで2,3年終業してこい」とか「オメェは三郎親方のところを手伝ってこい。先日、あそこの若いのが逃げちまったからな」とか言われる。
そんな風に元締めの命令であちこちの鍛冶屋で修業して一人前になったら、それから自分で店を構えるなり、特定の親方のところに居着くことになる。
もちろん元締めが「独り立ちして良し」と判断すれば、だ。独り立ちする前はちょくちょく元締めのところの仕事も手伝わないといけないし、何となく落ち着かない。元締めが一人前と認めないうちに独り立ちしても良いんだけど、その時は元締めの意向に逆らうことになるから、元締めの庇護の傘から離れる決心をしなくてはいけない。元締めのところである程度の経験値を積むと、晴れて「あがり」となる。

もちろん鍛冶屋の寄り合いにもいろんなごたごたがある。
ほかの親方から苦情が来る。
「この前よこしてもらった五郎太、あれはちっとも使い物にならない。もっとマシなのをよこしてくれ」と言われたり。
「うちは若いのが二人も逃げちまって。新人を二人ほしいって頼んだのに一人しかよこしてくれない」と言われたり。
新人からも言われる。
「丁稚の身分だからって、三郎親方はよその半分しか給金をよこしてくれません。自分は女房子どももいるし、もっと高い給金のところに代えてください」だの。
「四郎親方のお店は田舎のど真ん中で、ハサミ研ぎの仕事しか来ません。もっと高い技術を学べる親方のところに行きたい」だの。
元締めはいろいろ手を打つわけです。
「最新の刀の鍛え方を学ぶ勉強会を開きます。出席率が悪い鍛冶屋には新人を回しません」とかね。でもだんだん元締めもイヤになってきて、最近は自分の店に新人を抱え込んで、ほかの親方に人をよこさなくなった。
するとこれはこれで、新人からもほかの親方からも苦情がバンバン出るようになった。揚げ句の果てには元締めの店を出奔して、よその元締めの弟子になる新人も出てくる始末。

困った親方、とうとう「丁稚がどの鍛冶屋に行くか、丁稚同士で委員会を作って決めてくれ」と言い出した。
が、ホントに丁稚が全部決めていいわけじゃなく、ほんとうは自分で丁稚の配置をいじりたい。けど責任は回避したいというだけ。丁稚は丁稚で、とてもとてもほかの丁稚の修業先なんて決められない。病気していたり身ごもった奥さんを抱えている丁稚もいる。それを「誰も行くひとがいないから気難しくてキツイ親方のところに行ってくれ」なんて言えるワケがない。ましてや、自分の出向く先も自分で決めるなんて、できっこないのだ。

もちろん元締めはそんなこと百も承知だ。ただ「丁稚が自分たち自身で話し合いで、民主主義的に決めた」と言えば、からくりは分かっていても文句の言いようがない。だから元締めが作った素案を了承する、それだけの委員会だ。

困ったのは委員会に選ばれた丁稚だ。
何の決定権もないし、決定権を持たされても責任の取りようがない。もともと職人なんてみな気難しい。みな好き勝手言うのを、元締めがきっちり束ねていたわけだ。その代わりなんてできっこないのである。
できるのはただ、素案を右から左に了承するだけ。
でも「それなりに審議を尽くした」というアリバイを残すため、何回かは会議を開かないといけない。
あああ。何と言う時間と労力のムダ。
こんな委員会、引き受けるんじゃなかった。元締めから電話がかかってきた時、はっきりと断われば良かったんだ。

次回は1月末。いよいよ元締めの素案が提示される。
自分の良心に葛藤が生じる予感がする。ものすごくする。ひょっとしたら自分も別の鍛冶屋に行くよう言われるんじゃないか。
うーん。。。。

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コメント

ごくろうさんだす。

どこの業界もまあ似たようなことはあるんですねー。
私のもともと働いてたとこは民主主義でした。
どのくらいの経験年数の人が、どこの親方のところに何人、って
配置だけはきまっていて
修行中の人は全員どこかの班にはいって話し合うの。
一応初夏に全員必須アンケートがあって
今の状況と、3年後や5年後にどうしたいかを
えんえんレポートさせられる。
で、秋のはじめに翌年の希望はきいてもらえる。
それにあわせて班がきまる。
5人くらいの班の中で、行き先と人数の枠がわたされる。
で、その中で話し合ってきめる。
当然、年若のもんは文句が言いにくいし
まあ決着がつくまでぐが大変なんだけど。
この民主会議、例年必ず12月の第1金曜日に
本社でやってます。
人事部長にあたる本社の人(たいていNo3くらい)が
変わるたびに大きな変動はあったけど
とりあえず今もこの民主主義、つづいてる。
意外と悪くはないよ。
4月の引越にも余裕で間に合うし。年賀状にも
次はどこそこあたり、って書けるしね。


なお、今は大きめの個人商店をかまえてる親方んとこに
FA(フリーエージェント)したので、自由です。
とはいえ、自由もたいへんなのだ〜


みんなの幸せのために、がんばるのだ〜〜!
GO GO!

投稿: pao | 2008年1月24日 (木) 21:55

>paoさん

いろんな仕組みがあるもんですね。
もしpaoさんのところの仕組みをこちらに適用しようとしたら、すったもんだの末に人間関係にひびが入りそうな気がします。
きっとスムースに運行できるようになるまで、それなりに時間と試行錯誤を要したんでしょうね。
うちは、ボスの任期もあと4年、ボスが代わればこんなシステムは無くなってしまうだろうし、なんともトホホな感じです。
どんどん人が逃げて行きそうな予感。うーん。

投稿: カオル | 2008年1月26日 (土) 15:37

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