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2006年4月11日 (火)

Tさんのこと

日曜日、納骨のあとでTさんのお宅にお邪魔した。

TさんはAAの先行く仲間だ。
お酒をやめてもう20年以上になるのだろうか。ソーバーも実年齢でも、大先輩である。
ぼくが最初にAAミーティングに行ったとき、そこにTさんはいた。
浅黒い肌。鋭い目つき。低いトーンで腹の底から発される声。
聞くものをハッとさせずにはいられない辛辣な言葉。
たいへんなところに来ちゃったな。
こりゃ言うことを聞かないとひどいめに遭わされるぞ。
そんなことを思ったのを覚えている。

Tさんの言葉は鋭かった。
オブラートに包んだような表現はいっさいなかった。直截で、ウソいつわりのない、痛いくらいの真実を突きつけた。
「俺たちはアルコール依存症者なんだ。精神障害者の集まりなんだよ」
「本なんか読んだって回復しない。タクアンになったアタマで考えるな」
彼の言葉はいつも、聞くものに判断を迫った。ただ聞き流すことなんてとてもできなかった。受け入れるか、拒否するか。選択を迫られた。それくらい彼の言葉にはひとを揺さぶるものがあった。

AAに来始めのころ、彼の言葉にはいつも反発を覚えずにはいられなかった。
ビッグブックには希望が、誇りが書いてある。ビッグブックを否定するような話は受け入れられない。たしかに俺たちはアルコール依存症者だ。でもだからといって、いつもそれを意識して卑屈に生きなくっちゃいけないのか。などなど。
でも、AAに参加して長く経つにつれ、いかに彼の言葉が正しいのかが分かってきた。
酒が止まったばかりの依存症者は、ちょっとしたことにも酔い、バランスを崩しがちだ。
ビッグブックには良いことがいっぱい書いてある。でもそればかりに気を取られて、現実のミーティングを軽んじることがあってはならない。
考えてみたらぼくだってビッグブックに心酔するあまり、現実の仲間の話を軽んじていた時期がある。
書物を読んでアル中が治るんだったらこんな楽なことはない。
そんなことはありえないからこそ、われわれは来る日も来る日もミーティングに足を運び、記憶の蓋をこじ開け、思い出したくもない話をくり返す。感情のコントロールを学び、きょういちにち飲まないで生きていられたことに感謝する。その繰り返しの中からわれわれは互いを思いやり、新しい仲間を助け、自分自身の飲まない生き方を伸ばしていける。
「自分が何ものなのかを忘れるな」
これもTさんがよく言っていた言葉だ。そう、ぼくたちはアルコール依存症者だ。
それが分かっていても、飲まない生き方を続けていくと、飲んでいたころのことよりもこれからの生き方の問題に焦点が移ってくる。そして生き方の方ばかりに目を向けていると、アルコール依存症者が飲まないで生きる、という、肝心の点がぼやけてくる場合がある。
そのことに対してTさんは、いつも警鐘を鳴らしてくれた。もし彼がいなかったらぼくは、いまよりずっと独りよがりで、高慢で、自分だけが正しいと思い込んで、自分と違う考えの仲間を受け入れられない人間になっていたかも知れない。
そして飲まない日々が長くなるにつれ、Tさんの言葉がどれほどたいせつなものを含んでいたのか、あらためて気がついた。

Tさんは50代も半ばになってからパソコンに取り組んでいる。メカ好き、新しい物好きとは聞いていたが、彼のチャレンジ精神には舌を巻くばかりだ。
彼の新しいiMacの設定をしながら、いろんな話をする。
今でも彼のとなりにいると、少しばかり緊張する。
柔和な表情で猫を呼ぶ彼の声は優しく、かつてぼくに叱咤と激励(だよね)の言葉をかけてくれたときには想像もできないくらいだ。
でも言葉の端々に、いまも彼が飲まないで生きていることに誇りを持っていることがうかがえる。

ああ、このひとはほんとうに、どこまでもAAメンバーなんだな。
不器用なくらいに誠実で・・・。
柔和な彼の横顔を見ながら、そんなことを思っていた。

Tさんにはほんとうに感謝している。
いまのぼくのソブラエティのかなりの部分は、彼の影響だ。Tさんがいなかったらぼくはいつまでも仲間に甘えて、まだお酒をやめていなかったかも知れない。
彼がミーティングに帰還してくれる日を、ぼくはずっと待っている。
面と向かってはとても言えやしない。けど、ぼくは彼が復帰する日をこころから待ち焦がれている。


Tさん、あなたが言ってたことはどれもほんとうのことでした。
そのことを理解するのにずいぶん時間がかかっちゃいましたけど。
戻るグループがないのなら、ぼくのいるグループに来てくれませんか。
あなたがミーティングに帰ってくる日を、ほんとうに楽しみにしていますよ。

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コメント

>そのことを理解するのにずいぶん時間がかかっちゃいましたけど。

大丈夫。
まだまだ酔っ払い暴走中ですよ。
繋がったばかりのメンバーには
良い先行く仲間に見えているのだろうけれども。

あなた
もう少し、本気で冷や水浴びたほうが良いかも知れません。
(ちょっと言い方が冷たいか)

こういうことを言われてしまえば
人間は心を閉ざし固くなってしまう。
それはいたって自然ですので、抵抗無く抵抗感を
持っていただきたい。そしてゆっくり消化していただければ。
結論、言われるような種もしっかり携えているということを
そろそろわかった方がいいかもしれない。
(言われても多少受け入れられる時期に入ってきましたよね?)

夢の中で生き、夢の中の物語で人助けを
するのではないのですから。

投稿: 大丈夫 | 2006年4月19日 (水) 22:36

大丈夫さん、こんばんは。
コメント、何度も拝見させていただきました。
独特の文章、主観的かつネガティブな表現。
いままで何度もコメントをくれた、あなたですね。
ずいぶん慣れたつもりですが、それでもやっぱり傷つくものですね。
あなたには、ある意味文才があると思います。これだけの短文で的確に相手を傷つけることができるのは、希有な才能といってもいいでしょう。
辛辣な言葉を投げ掛けつつ、こうしてぼくのブログを読み続けているのはなぜなのでしょう?

深呼吸。冷静に。
あなたとぼくは、同じコインの表と裏なのかも知れません。アルコール依存症という病気の、まったく異なるように見えるふたつの側面を、われわれは分担しているのかも知れませんね。
あなたから見ればぼくはまるっきりの甘ちゃんで、きれい事を並べて自分に酔っているように見えるのでしょう。
ぼくから見ればあなたはネガティブな感情に酔い、自分で作った心の牢に自分で囚われているように思えます。
われわれはどちらもアルコール依存症という病気に呑まれまいと必死に走っているように思います。
走ろうとした方向がちがうだけで、われわれが走った距離はあまり変わらないんじゃないか。
そしてひょっとしたらぼくも、あなたといっしょに、あなたと同じ方向に走っていたのかも知れないな。そうも思います。

とは言え、ぼくは自分が走ってきた方向が間違っていたとは思いません。
甘ちゃんを直そうとも思っていません。ブログには書いていませんが、現実世界で怒りや非難をぶつけられ、じっさいに傷つき、イヤな目に山ほど遭っています。
それでもぼくは人の良い面を信じています。仕返ししてやろうとか相手も同じ目に遭わせてやろうとかは考えないようにしています。怒りがどれほど自分を損ない他人を傷つけるかを考えれば、人の悪い面を追求するよりは、人の良い面を探す方がどれだけ意味のあることか、ぼくはAAから学びました。誰が何を言おうとぼくはAAプログラムと仲間たちを信じています。もちろんTさんのことも。
お人よし。きれいごと。甘ちゃん。ドリーマー。自己陶酔。何と呼んでもらっても構いません。
このタイトでハードな現実世界で夢を見続けるのはけっこうエネルギー要るんですよ、こう見えても。

投稿: カオル | 2006年4月20日 (木) 00:01

独特の文章、主観的かつネガティブな表現。
>ネガティブにしか感じることが出来ませんか?(笑)

いままで何度もコメントをくれた、あなたですね。
>そうです。おそらく2度目ですね。

ずいぶん慣れたつもりですが、それでもやっぱり傷つくものですね。
あなたには、ある意味文才があると思います。これだけの短文で的確に相手を傷つけることができるのは、希有な才能といってもいいでしょう。
>特に感じたままを述べていますが、そう思うのなら相当カオルさんの問題にヒットしているからではないでしょうか。

深呼吸。冷静に。
あなたとぼくは、同じコインの表と裏なのかも知れません。アルコール依存症という病気の、まったく異なるように見えるふたつの側面を、われわれは分担しているのかも知れませんね。
あなたから見ればぼくはまるっきりの甘ちゃんで、きれい事を並べて自分に酔っているように見えるのでしょう。
>文章で全てはわかりませんが、かなりの事がわかります。残りはハイヤーパワーの領域ですが。

ぼくから見ればあなたはネガティブな感情に酔い、自分で作った心の牢に自分で囚われているように思えます。
>多分、そのくらいしか推測できないんでしょう。人生経験に幅がないとそのくらいの単純な発想しかわかないのは仕方がない(そう言うところから想像がついてしまうのですよ)。

われわれはどちらもアルコール依存症という病気に呑まれまいと必死に走っているように思います。
走ろうとした方向がちがうだけで、われわれが走った距離はあまり変わらないんじゃないか。
そしてひょっとしたらぼくも、あなたといっしょに、あなたと同じ方向に走っていたのかも知れないな。そうも思います。
>BBを読んでいますか?あれは「何のために書かれた」と言っていますか?方法はいろいろありますが、方向は一緒のはず。方向がいろいろあるとか、または違うとか、そういう考えが浮かんでくること自体、BBを読み理解し、実行しているのか、と問いたくなる訳です。

ブログには書いていませんが、現実世界で怒りや非難をぶつけられ、じっさいに傷つき、イヤな目に山ほど遭っています。
このタイトでハードな現実世界で夢を見続けるのはけっこうエネルギー要るんですよ、こう見えても。
>・・・そんなことを、自分からいってしまっては・・・・。
大丈夫、人に言う前に神がそれを知っていますよ。
そのうち、機会が訪れれば何故時々訪問しているのかお話ししようと考えております。
今はまだ、理解が出来そうな状態ではなさそうです。
それよりも、なぜ自分が批判に弱いのか、そこを見つけ出せるといいですね。幼少期、相当な傷を負っているはず。
欠点、短所と位置付けて硬直するより、
本当の原因を見つけ慰められ、もう怖がることはないよと、
何度も教えてあげるといいと思います。

もっと思慮深く、もっと忍耐を養いましょう。

投稿: 大丈夫じゃないようですね | 2006年4月20日 (木) 16:50

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