立ち止まって、楽しんで
妻は道草の名人である。
書店に行けば目当ての書籍までの道すがら、すべての背表紙や平積み棚をなめるように見ていく。
新刊書籍、雑誌、ムック本。
雑貨店に入ったりすると、ほとんどすべてのアイテムにツッコミを入れて歩く。そのため、何も買わないのにもかかわらず店を出るまでに異様な時間を要する。
ぼくはどちらかというと道草しないで、さっさと目的を果たして次の行動に移りたい方である。必然的に、しょっちゅう妻のそでを引っ張るようになる。申し訳ないとは思うんだけど、われわれの時間は有限であり、この資本主義社会は無限に近い物質にあふれているのである。全部にツッコミを入れて回るわけには行かないのである。
で、その妻とともに早朝ジョギングに出る。
ぼくは走ることに夢中で気がつかないが、妻はちいさな風景をどこからともなく見つけてくる。
何という名の花だろうか。
雑木林の隅っこに咲いた。ちいさなちいさなむらさきの花。
朝露に太陽が反射してきらきら光っている、雑草としか呼びようのないような、ちいさくてきれいな花。
きれいだね。と妻。
ぼくはなんて答えていいか分からなくなり、一心に花をのぞき込んでいる妻の背中を、ただ見つめている。
ほんとうにきれいだと思う。
あくせく体を動かすことばかりヒッシになっていた自分が、急にちっぽけに思えてくる。
風景を楽しんで、ちいさな発見をよろこんで。
それでいい。それでいいんだと思う。
・・・で、あとから妻に聞いたら「オオイヌノフグリってのよ」とあっさり答えが返ってきました。
どうやらぼくが無知だっただけのようです。
花の名前なんて、パンジーとチューリップくらいしか確信もって言えないもんなー。
ああ無知無知。オレの無知。
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