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2006年2月 6日 (月)

古巣へ

別の支社の立ち合い業務に行ってきた。
別の支社。そう、ぼくが前に勤めていたところだ。
ここに勤めていたころぼくは飲み続け、限りなく無断欠勤をくり返した。仕事の約束をつぎつぎと破り続けた。
誰の目にも、ぼくがアルコールで深刻なトラブルを抱えているのは明らかだった。
ついに、クビになるかクリニックで治療を受けるか、二者択一を迫られた。
部署のメンバーにもフロアにも、多大な迷惑をかけた。
ここを去ったのは平成13年の3月。いまから5年前だ。
あいさつらしいあいさつもしなかった。送別会もなかった。逃げるようにぼくはここを去り、以後きょうまで二度と足を向けることはなかった。
あれから5年。
もう5年。
5年もの歳月が経ったのが信じられない。迷惑をかけまくった。汚名を挽回することはできなかった。だれもぼくが去るのを惜しんでくれなかった。みんな早く消えてくれと願っていたにちがいない。あのころしばらく、そう思い返すだけで悲しかった。とてもさびしく、つらい気持ちだった。こころざしを持って社に入ったはずなのに、気がつけば最低のお荷物に成り下がっていた。支社の入り口に立つだけで当時の悲しさ、自己憐憫、やり切れない気持ちがよみがえってくる。ほんのきのうのことのように苦い唾液が口の中に込み上げてくる。

今回は、与えられた立ち合い業務をしっかりこなすことに集中しよう。
よけいなことはやるまい。もし声を掛けられたら、にっこり笑ってあいさつをしよう。
おだやかに、リラックスして。何を言われても、どんな冷たい態度をとられても、こころが揺れないようつとめよう。

近くのショッピングモールに車を停めて歩いて本部に行く。
本部の駐車場に停めればいいんだけど、「オマエに渡す駐車券なんてない」と言われるんじゃないかという妄想がどうしても頭から離れない。
玄関で本社の担当者と合流し、時間通り仕事が始まる。

立ち合い業務自体は、アクシデントもなくつつがなく終了。
支社側の立ち会いで、かつてのフロアのメンバー多数と言葉を交わす。
おたがい紳士的で礼を失さない態度で仕事は進む。
かつての上司ともすれ違う。簡単にあいさつをして、彼は足早に過ぎ去っていく。
本社の担当者はぼくとの立ち合い以外にもいろいろチェック事項があるらしく、出番が終わるとぼくはあっさり放免された。誰にも見送られずに玄関をくぐり、クルマに戻った。

当時。もしあんな去り方をしなければ、業務の後で雑談でもできただろうか。共通の知人やかつてのフロアメンバーの話でもできただろうか。
でも仕方ないもんな。悪いのは100パーセントぼくだ。
これも埋め合わせのうちに入るんだろうか?
少なくとも、かつて自分が飲んでどれだけ周囲に迷惑をかけたか、あらためて感じた。
それだけでも収穫があった。
きちんと与えられた仕事をこなせたことに感謝しよう。
感情を波立たせず、穏やかに対応できたことを感謝しよう。
これもまた、飲まないでいるからこそ経験できることなんだから。

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コメント

>「オマエに渡す駐車券なんてない」と言われ るんじゃないかという妄想がどうしても頭から 離れない。

笑い事じゃないのかもしれませんが、ちょっとウケました。

すごくストレスのかかる状況ですよね…。

お疲れ様でした。

投稿: アノ | 2006年2月 7日 (火) 16:00

私は最後に勤めていた会社は電気回路の設計の仕事でした。散々迷惑をかけて長期休暇を頂きました。病名は「自律神経失調症」でした。長期休暇中にアルコールが最終的にどん底状態になりました。アル中のことは話さずに、体調がこれ以上休んでいても良くならないと言うことで退職しました。アル中がばれずにすんだと思っていたのは私だけかもしれません。会社はできる限りの誠意を私に尽くしてくれました。

投稿: ぷみら | 2006年2月 7日 (火) 21:36

アノさん
仕事で来たのに、イジワルされて駐車券をもらえない。
ほんと自分でも妄想だとは思ったんですが、どーしてもそう言う考えがアタマから離れなかったんですよ。
かつて飲んで迷惑をかけたと言う引け目、劣等感のあらわれです。
ソーバーでいても、こういう劣等感が取れるのは時間がかかるんでしょうね、きっと。
アノさんの落ち着きがうらやましいッス、ハイ。

投稿: カオル | 2006年2月 7日 (火) 23:20

ぷみらさん
ミーティングで先行く仲間の話を聞いていると、職場でアル中がばれてないと思っていたのは自分だけだった・・・という話をよく聞きます。
ぼくもその典型ですね、きっと。
だからといってかつての職場の人たちに「ねえ、あのころのぼくはお酒臭かった?いつからアル中だって分かってた?ねえねえ教えてー」と尋ねるわけにもいかず。
ぷみらさんの会社と同じく、クビにしないでいてくれた会社はむしろ温情があったと思います。
それでもかつての同僚と顔を合わせるとやっぱり罪悪感と劣等感が込み上げてきます。
受け入れる落ち着き、手に入れたいものですねー。

投稿: カオル | 2006年2月 7日 (火) 23:25

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