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2006年1月17日 (火)

温水洗浄便座、最後の戦い

新しいアパートに越してきて1年2か月が経過した。
最初は慣れなかった新しい住まいも、1年以上も住んでいればさすがに慣れてくる。
が、ひとつだけ手を付けていなかった分野がある。
トイレだ。
新しいアパートのトイレには、便座の横のパネルに数種類のボタンが配置されている。
いままでごく限られた環境でしか目にすることがなかった、そのスイッチ類。
そう。
温水洗浄便座である。ウォシュレットと呼んでしまいたいが「ウォシュレット」はTOTOの商標登録だそうなので、ここではあくまで「温水洗浄便座」と表記する。
washlet

ぼくはかつて、いちどだけこの装置を使用したことがある。
悲惨だった。
いつ、どこでその体験をしたのか思い出せない。たしか、温水洗浄便座が一般に普及し出したころだったと思う。
とあるトイレで、はじめてぼくはその装置に出会った。
後先のことをまったく何も考えず、ほんの気まぐれでぼくはそのスイッチを押した。
ぼくの想像では、洗浄水はやさしく、あたたかく、春の小川のせせらぎのようなやさしさで触れてくれるはずだった。
でも現実は違った。
その流水は硬く、アグレッシブだった。消防隊がビル火災で用いるかのごとき強烈な水圧が、容赦なく身体のいちばん柔らかい部分を直撃した。
洗浄水がしかるべき箇所をヒットした瞬間、ぼくは反射的に体をよけた。よけるしかなかった。突然あの攻撃を喰らって、それ以外の行動を取ることはできなかった。
中腰で振り返ってぼくが見たのは悪夢のような光景だった。
それは、便座から噴出する水流がアーチを描いて空中高くほとばしり、トイレの床をびしょびしょに濡らしている場面だった。

どうやってその場を逃れたのか、いまとなっては記憶もおぼろげだ。
あれから幾星霜。
時は流れた。温水洗浄便座は普及し、いろんな場所でその装置に出会うようになった。
ぼくは温水洗浄便座に遭遇した際は、最大限の注意を払ってそのスイッチに触れないよう努力してきた。
スイッチを不用意に押しさえしなければ、便座はただの便座だった。その暴力的な水流が牙をむくことはなかった。あたかも満腹で昼寝をしているライオンのように、穏やかにうずくまっているだけだった。
ぼくはライオンを起こさないように、その装置を用いない古典的な方法で案件を済まし、そっと立ち去るようにしてきた。

その装置。
その装置が、うちのアパートに堂々と陣取っているのである。
まぁいい。
触らなければどうということはない。飛べない豚はただの豚だ。

しかし。
妻がついに、その装置に触れてしまったのである。
おとといのことだ。
AAのセミナーから帰ってきたあと、荷物をほどいてほっとするまもなく、トイレから妻の悲鳴が聞こえてきた。
何が起きたか、瞬時にして直感的に知覚することができた。まちがいない。妻があの装置に触れてしまったのだ。眠れるライオンのしっぽを踏んだのだ。
脱兎のごとき勢いでトイレに駆けつけると、予想にたがわない惨状が広がっていた。
肩を落とし、唇を噛む妻。噛んでいたのはなぜか上唇だったが。

許すまじ。
許すまじ温水洗浄便座。
そうまでして我らに牙をむくのか温水洗浄便座。われわれが何をしたと言うのか。ただただ世間の片隅でひっそりと生きていきたい。それさえも許さぬと言うのか。
AAは戦わない生き方を説くが、ときとしてひとには立ち上がらなければならないときがある。
いまがその時だ。
意を決し、トイレに向かって立ち上がる。
頭の中ではエンニオ・モリコーネ楽団の”さすらいの口笛”が鳴っている。「荒野の用心棒」のテーマ曲だ。
さいわい、時も満ちている。
ついにいま、決着をつけるときが来た。

まずは案件を済ませる。
そしてスイッチに手を伸ばす。まさかこのスイッチにふたたび手を伸ばす日が訪れようとは。
かつての苦い思い出が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
万感の思いを胸に、ついにスイッチを押す。


痛っ!痛痛痛っっっ!!!痛い痛い痛い!いだだだだっっっ!!!

激痛が下から上にほとばしる!
た、耐えるのだ、耐えるのだ。
ここで体を引いてしまってはすべてが敗北に帰す。耐えるのだ。
が、5秒経ち、10秒経っても、水流は一向にやまない。ど、どうしたことか。まさか温水洗浄便座が意志を持って我に刃を向けていると言うのか!
さらに5秒。15秒。ニクタイの限界。そう言う言葉が脳裏をよぎる。意志と相反して、苦痛にさいなまされて腰が浮き上がろうとしている。温水洗浄便座の嘲笑が聞こえてくるようだ。な、なんとか逆転せねば・・・。
激痛に痺れるアタマでとっさにパネルに目をやる。グリーンに輝く洗浄マーク。これだ!
ボタンを押すのと同時に、水流が止まった。
あとには水の流れる音が響くだけだった。あっけなく、戦いは終わった。
勝った。
かろうじてだが、勝利を手にすることができた。かつてない強敵であった。
だが、これが最後の温水洗浄便座とは思えない。
かならずや第2,第3の、より凶悪な温水洗浄便座がわれわれの行く手を阻むにちがいない。
その日のために、われわれは日々の鍛練を怠ってはならないのである。
どこをどう鍛練するのかはともかく。

今回のきょうくん。
いち。水流は自動で止まるとは限りません。止まらない場合はスイッチを押して水を止めましょう。
に。デフォルトの水圧はかなり強いです。初心者の方は「弱」からはじめるとよいでしょう。
さん。びっくりして腰を上げないようにしましょう。

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コメント

私はウォシュレット風機器がついていないトイレは苦手になっちまいました。
慣れるととてもイイです。むしろナシでは生きていけないぐらい。
自宅にもつけました。自分で取り付けました。(笑)

が。

今の会社になって、立派なビルに引っ越したものだから、会社のトイレにもついてるんですね。

んで、たまに使うのですが、ごく稀に「キミのお尻はどれだけ頑強なんだ」と叫びたくなるぐらい強い勢いにセットしているヒトがいて・・・。

私も弱がいいです・・・。

投稿: otama | 2006年1月17日 (火) 23:03

私も友人宅で生まれて初めてウォシュレットに遭遇しました。20年ほど前の事です。「おぉ~、これが噂のお尻洗浄装置かぁ~」ってな具合で、マジマジと至近距離で見つめながら、ボタンを押しました。先日のミーティングで、あるメンバーが、「屋外で爆発音がしました。さて、あなたは、先ず何をしますか?という質問に対して、何が起きたかを見に窓に向かうと答える人の多くは、アルコールを含む何らかの依存体質を持っているらしい。」と言ってました。もしかして、アル症特有のウォシュレット初対面行動パターンというのもあるのかも...

投稿: fragis | 2006年1月18日 (水) 02:02

otamaさん
あの危険な装置を自在に操るotamaさんはすごいと思います。
会社にもついてるってのもスゴイですね。
「強」を試す勇気は、ぼくにはまだありません。おそらく、相当な激痛かと。
そのうちぜひ、使用レポートを・・・。
(あ、もちろん健康を害さない範囲でお願いします)
そう言えば昔、戸川純がウォシュレットのCMをやっていませんでしたっけ?
「お尻だって洗ってほしい」だったかな。
なつかしいなー。

fragisさん
コメントありがとうございます。
で、友人宅でウォシュレットボタンを押したあと、どうなったんでしょう。
まさか悲劇が起きたのでは・・・。
爆発音がして外を見るかどうか?は、なかなか興味深いご意見ですね。
ぼくだったら当然、すぐさま外を見ます。
依存症のせいかどうかは分かりませんが・・・。
(単なるやじ馬根性?)

投稿: カオル | 2006年1月18日 (水) 11:10

その発言者さんによると、依存体質でない人は、先ず机の下に隠れるとか、身の安全を確保する事を優先するらしいです。

投稿: fragis | 2006年1月19日 (木) 02:22

fragisさん
ぼくは、そうですねー。地震だったらまちがいなく身の安全確保ですが、屋外のバクハツ音だったらぜったい窓の外を見ると思います。
やっぱり依存症体質なのかな・・・って、とっくに依存症でした(笑)。

投稿: カオル | 2006年1月20日 (金) 06:33

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