« ボーゼン | トップページ | 吾妻ひでお「失踪日記」 »

2005年6月28日 (火)

Eric Andersen 「愛と放浪の日々」

近ごろ、昔と音楽の聞き方が変わってきたことに気がつく。
10代、20代のころはかじりつくように音楽を聴いていた。スピーカに向き合い、スピーカの向こうにいるであろう音楽の語り手に向き合おうと、じっと耳をそばだてていた。
レコードに針を落とし、針とレコード盤が作るノイズに引き続いて音楽が始まるのを目を閉じて待っていた。
そして次の瞬間に鳴り響く音は、どんなつまらないレコードであれ、ぼくを日常から引き離してくれた。

どうも近ごろはそう言うキアイの入った音楽の聞き方をしなくなった。
カーステレオで新譜を聴く。
アルバムでいちばん力を入れたであろう曲が、前のクルマの割り込みや黄色信号に気を取られている間に過ぎ去っていく。サビに入る直前にボーカルの息を吸う音、素敵なドラムのフィルインや、練りに練ったにちがいないブレイクがあっという間に流れ去っていく。そしてそのままカーステレオは次のCDに代えられ、取り出されたCDは部屋の片隅に積み上げられ、忘れ去られていく。
気がつくと、そんなことばかりだ。
そう言う「薄い」関わりで音楽を聴くことに慣れてしまっている。

エリック・アンダースン(Eric Andersen)のアルバムを買った。
「blue moon」、そしてこの「be true to you」(邦題「愛と放浪の日々」)。
まだ「愛と放浪の日々」しか聞いてないけど、ここには70年代フォークロック/ポップの絶妙のエッセンスがある。
発表は1975年。まさに70年代のど真ん中だ。
たとえば「Ol' 55」(オール55)という、トム・ウェイツのカヴァー。
夜明けにガールフレンドの家を出て、太陽が昇る中ハイウェイを走り、仕事へ向かう男の歌。
ドラム、ベース、スティールギター、アコースティックギター、ピアノ、コーラス。
なんとも言えない、やさしい音がする。
1975年の若者の姿がスピーカの向こうに見えそうな気がする。
デジタルテクノロジーを使っていないレコーディング。やさしく丸い音。

久しぶりにスピーカに対峙するように音楽を聴いている。
エリック・アンダースンは70年代風に優しいサウンドで、70年代風にカッコつけて歌い、70年代風にまっすぐに、スピーカのこちら側に歌いかけてきている。
一生懸命なにかを伝えようとすれば、たしかに伝わる。
時間も場所も飛び越えて、エリック・アンダースンが歌に込めたものは2005年の日本まで届いている。
色あせずに輝きを放っている。

|

« ボーゼン | トップページ | 吾妻ひでお「失踪日記」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Eric Andersen 「愛と放浪の日々」:

« ボーゼン | トップページ | 吾妻ひでお「失踪日記」 »