海岸沿いの道路を裸足で歩くことについて
目を閉じて想像してみる。
固く目を閉じて、ぼくらは夏の海岸沿いの道路を裸足で歩いているのだと想像してみる。
8月の終わり、海水浴客もいなくなって人気のない、海岸沿いのアスファルト。
ぼくらは靴を手に持ち、裸足でその上を歩いている。
砂とアスファルトの熱が足の裏から伝わってくる。手入れされていないひび割れだらけのアスファルトの合間から、名前の分からない雑草が伸びている。
ぼくらはその上を裸足で歩いている。もう何時間も、ずっと前から。
ずっと遠くから。
なまあたたかいアスファルトの感触。裸足でその上を歩くのは久しぶりだ。
Tシャツが汗で濡れて背中に張り付く。強い日差しが照りつける。
クルマも通らず、人家もない。夏の匂いだけがあたりを濃厚に満たしている。
ぼくらは押し黙って、裸足でアスファルトの上を歩いている。
やがて、夕暮れにはまだ早いのに空が暗くなる。
湿気った8月の風と海の匂いに混じって、雨の匂いがただよいはじめる。
少しずつその匂いが濃くなっていく。
入道雲も見えないのに、あたりはどんどん暗くなっていく。
そして突然、たたきつけるような夕立が降り始める。突然、なんの前触れもなく。唐突に。
激しい雨、どこにも逃げられないような激しい雨が。
雨はアスファルトを叩き、そのしぶきがくるぶしに突き刺さるようだ。
生ぬるいアスファルトの上に、あっという間に水たまりが生まれる。細かい泡粒が白いもようを描いている。
濡れた髪が額に張り付き、雨粒がTシャツの生地の上から肌を叩く。ぼくらは顔を伝う雨で目も開けられない。
その時はっきりと、遠くから雷鳴が聞こえる。長く、大気を引き裂くような雷鳴。
ひとつ、少し間隔を置いてまたひとつ。
さっきまでの静寂は、激しい雨音と雷鳴であとかたもない。
ぼくたちはしっかりと手をつなぎ、それでも海岸沿いの道路を裸足で歩いていく。
どこに向かっているのかは分からない。けれど、それでも、ぼくらはその中を歩いていく。
そんな風景を想像してみる。
目を閉じて、冬の終わりの、良く晴れた日の午後に。
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