世界の中心で愛をさけぶ、読了
やっと片山恭一著「世界の中心で愛をさけぶ」を読了。
映画版を見て、見るべきものがあったように思ったので原作を読むことにしました。3週間くらい前かな。読み終わるのに時間がかかったのは、忙しかったせいもあるけれど、なかなか集中して物語にのめり込めなかったから。
感想です。
物語の世界に集中できるまで、かなり苦労しました。ストーリーは映画版とかなり違う。主人公の男の子が同い年の女の子と出会い、恋に落ちる。おじいちゃんに頼まれて、おじいちゃんの片思いだった女性の骨を盗みに行くエピソードが入る。女の子と順調につきあうようになり、やがて近くの無人島(と言うのもヘンだけど)でふたりきりで一夜を過ごす。帰ってきてしばらくして女の子が白血病だと言うことが分かる。彼女とふたりでオーストラリアに行こうと計画するのだが・・・・と言うもの。
ほんとにほんとにほんとうに、ほんとうにこれっきりなのだ。それ以上の細かいエピソードや伏線は、なーんもない。主人公が彼女とつきあって彼女が病気になる。それだけ。筋書きがそれだけでも、ま、良いだろう。きめ細かい気持ちの揺れや主人公の気持ちの動き、描写が生き生きしていれば問題ない。が、この本にはそれもなし。生死感についてちょっと考えて、彼女についてちょっと考えて、だらだらと自分を責めて、それでおしまい。が、それよりも何よりも、主人公のふたりが生き生きしていない。サクとアキがどれだけ魅力的で感情移入できて読み手が共感できるかが決め手だと思うんだけど、小説の中のサクとアキはひどくのっぺらぼうだ。どこにどう共感したらいいのかがよく分からない。
それと、映画版と比較するのは本末転倒だと思うんだけど、映画で印象的だった場面のほとんどが映画版オリジナル。結婚写真のエピソードも無人島で見つけた古いカメラもウォークマンの交換日記も、ぜーんぶナシ。
無人島行きの件から後半はそれなりに物語が走り出すんだけど、とにかく前半がたるい。そのたるい前半を補うものが何もない。読後に「オレはベストセラー小説を一冊読んだ」という以上の経験値が残らない。
ううむ・・・この本、なんでこんなに売れたんだろう?前にも書いたとおり、「売れる」と言うのは、少なくとも資本主義的な成功という意味、少なくとも大勢の人々に読まれたという意味では価値のあることだ。表現物の善し悪しを測る物差しのほんのひとつではあるが、ほかよりも抜きんでていると言うことだ。売れるには売れるだけの、大衆から注目されるには注目されるだけの理由があるはず。が、この「世界の中心で愛をさけぶ」には、ぼくはその理由が見あたらなかった。
ううむ・・・これが若い作家のデビュー作ならまだ理解できるんだけど。40過ぎてかなり著作点数も多い作家のペンによるもの。アマゾンの感想の投稿も、クソミソな評価ばかり。基本的にはねー。好きなんですよ、こういう話。男の子と女の子が恋に落ちる。ふたりは激しく惹かれあうんだけど、悲しい運命がふたりを引き裂く。遠い将来にそれを振り返り、悲しみと切なさと甘酸っぱい思いを懐かしく思い出す。使い古されていようと、悪い題材じゃないと思うんだけどなー。なんでこんなに不全感の残る作品なんだろう。
しかしアマゾンの感想を見ていて思ったんだけど、世の中にはいろんな人がいるものですね。この本を読んで薄っぺらいと思ったが「この本だけかと思い」、わざわざほかの著作も読んだと言う方がおられる。その結果「やっぱり同じだった」とのこと。えらいなー。ぼくだったら一冊読んでつまんなかったら、その作家の別の著書を読もうって気にはなかなかならないものなー。きっとこういう方が、日本の文芸界の裾野を支えてくださっているんですね。ありがたいことです。とにかくセカチュー、映画やドラマを見て感動して、それを深めようと思って読むのはまちがいみたいです。そういや今年の夏ごろ、渡辺淳一が「セカチューはそれほどひどいできではない」と、わざわざ擁護するようなエッセイを書いていたっけ。純愛小説の大家がかばわずにはいられないとは、ううむ、おそるべしセカチュー。
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コメント
You know, there are two kinds of " best seller book ".
One is the TRUE BEST SELLER, and another is the TEMPORARY ONE.
It is our happiness that we know many of TRUE ONE. For instance , S.King , H.Murakami ...and so on.
Someday , I could write a book of TRUE ONE...(^^)
投稿: pao | 2004年10月 8日 (金) 00:18
いつもコメントありがとうございます。そうですね、そのときだけの、はかないベストセラー本はいつの時代でもあるものですよね。五島勉(だったか)の「ノストラダムスの大予言」はたいへんなベストセラー本だったそうですが、とくに文学的な足跡というものはないですものね。ま、サブカル方面には多大な影響を残しましたが・・・。でも「恋愛小説」で「純文学系」というふれこみで「各界から大絶賛!」とくれば期待しちゃいますよー。そう言えば村上春樹の新作が出ましたね。未読ですが、楽しみです。
投稿: カオル | 2004年10月 8日 (金) 18:24