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2004年9月 2日 (木)

華氏911を観てきた

話題の華氏911を観てきた。タイトルはレイ・ブラッドベリ(幻想小説・SF小説家)の「華氏451」のもじりだ。華氏451とは摂氏に直すと233C。この温度で紙が燃え上がるそうだ。ブラッドベリは紙が燃える温度をタイトルに、焚書で自由な表現活動が閉ざされる社会を描いた。華氏911でマイケル・ムーアは、9.11をきっかけにアメリカの自由が閉ざされることを警告している。
正直に言うと、華氏911はゲヒンな映画だ。なぜか?それは、ジョージ・ブッシュの人間性を主題のひとつとして扱っているからだ。ブッシュが政界入りする前にひとの金でいくつも会社を作っては潰してきたこと、ひどいときには会社がつぶれる前に株を売って損をしないように立ち回ってきたこと、大統領選では強力な親族のコネがあったこと、選挙で有色人種を排除したこと、911の一ヶ月前はほとんど遊んでいたこと、などをしつこく描いているからだ。
では、この映画はゲヒンか?
ぼくはそうは思わない。ブッシュの政策のひどさ、イラク国内の悲惨な状況は米国内ではほとんど報道されていないからだ。戦時中の日本のように、情報統制が行き届いていて、メディアではブッシュ政権に都合の悪い情報はほとんど流されていない。流されていても恣意的に意味が変換されている。ブッシュやラムズフェルドの失策に言及するような報道は、米国内では「ない」のだ。悲惨なことに、ブッシュ政権の矛盾や行き詰まりの情報がもっとも行き渡っていないのはローカルエリア、そして貧困層だ。彼らはネットや外国の情報に触れることができず、アメリカの巨大ネットワークの放送でしか世界を知らない。ブッシュがもっとも操りやすい層。そして、戦場に行かされるのは彼らだ。
映画を見終わって、ブッシュ政権について知っていることを思い出してみる。イラク戦争以外に。
銃規制反対。すべての家庭に「銃を持つ権利」を。
人工中絶禁止。神がもたらした命を人間は絶ってはならない。
愛国法。テロの可能性がある場合、個人の情報を政府は監視できる。またメディアの情報を制限できる。
同性愛の結婚禁止。神の摂理に反するので。
なんというか、非常に片寄ったものの見方を全体に当てはめる傾向がある。なおかつ、非常に利権にからんだ感じがする。マイノリティや社会的な弱者に対する配慮が欠けているような気がする。
マイケル・ムーアはその辺のことにはいっさい触れない。ただひたすら、911からイラク戦争に至る流れを、ブッシュの映像を絡めて追っていく。
ジョージ・ブッシュは911の知らせを聞いたとき、小学校で絵本を読んでいた(なんというか、ホワイトハウスの執務室にいるよりもそう言うことをやっている時間が非常に長いひとらしい)。それはともかく、米国が攻撃を受けている情報が入ってきたときにも、このひとは絵本の朗読を中断しなかった。側近が立ち入りづらい小学校の教壇の上で、7分以上もの間、絵本を読み続けていた。
うーん、どっかの国にもいましたねー。高校の実習船が潜水艦とぶつかって沈没したときに、ゴルフを中断しなかった首相が。
飛行機テロが具体化しつつあることを政府は知っていた。だがブッシュは報告書を読まなかった。テロリストが米国内で航空機の教習を受けていることを政府は知っていた。だがブッシュは報告書を読まなかった。
映画の中でかなり時間を割いて説明している、アラブマネーとブッシュ家の関係は、ぼくには良く分からない。客観的な情報かどうかも、今ひとつ分からない。事実はもっとフクザツで、ムーアが知らない事情も山ほどあるんじゃないかと思う。しかし、少なくとも為政者としての彼の適正については、この映画は良く描けていると思う。
これは映画か?良く分からない。マジメな電波少年という気もする。
これは芸術か?良く分からない。映画を観ただけでは「この監督はどうしてこんなにひどい個人攻撃をするのか?」という感想が出るかも知れない。
しかし、マイケル・ムーアが目的としているのはブッシュを揶揄して喜ぶことではなく、ブッシュが作り出した悪夢のような状況を早く終わらせることなんだと思う。だからあえて個人攻撃に近いような映画を作ったのだろう。映画の中でもあるとおり、彼がアラブの大使館の前でカメラを回しているだけで、大統領警備員から注意を受けるのだ。または、田舎の気楽なお年寄りの「平和について考える会」にFBIが潜入してくるのだ。
これを悪夢と言わずしてなんと言う?

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