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2004年8月26日 (木)

凍てついた七月〜サザン・ゴシックのかおり〜

ジョー・R・ランズデールの「凍てついた七月」読了。なかなか本を読む時間が取れなかったんだけど、この作品は一気に終わりまで読み通した。「本を手放すヒマを与えない」という感じ。あらすじはこう。アメリカ南部の片田舎。額縁屋を営む主人公は30代後半(ぼくと同じだ)で、愛する妻とかわいいひとり息子とともに幸せに暮らしている。ある晩、家に強盗が侵入してくる。目を覚ました主人公は拳銃を片手に制止するが、賊は撃ってくる。主人公は打ち返し、強盗は即死。もちろん正当防衛で罪には問われないが、主人公の脳裏からは死体のイメージが消えない。警察が止めるのも聞かずに男の葬儀に出かける主人公。そこで賊の父親に出会い、脅される。父親は主人公の子供を殺すと言い、何重もの錠前や警察の警護をやすやすと振り切り、主人公の家に侵入する・・・・。
ここまではほんの導入部で、後半からあっと驚くような展開。ストーリーテリングが非常にうまい。だがこの物語を決定的に特徴づけているのは、アメリカ南部の描写、生活背景だろう。アメリカ南部。綿花畑、黒人労働者社会、そのあいだに広まる呪術的な迷信。妄想。血族にまつわるさまざまな因縁。ここに描かれている生活描写を読むと、この社会は1930年代以来、いや、ひょっとしたら南北戦争以来、ほとんどなにも変わっていないんじゃないかと思うくらいだ。貧しく、白人が作った一方的な社会への拒絶があり、迷信や呪術への恐れに満ちている。時代が移っても、馬車がクルマに、ラジオがTVに変わっただけのように思えてくる。吐き気がするほどの暑さ。トウモロコシ畑を持ち豚といっしょに暮らすのがごく自然な社会。そこを舞台に、物語は「父親になると言うことはどういうことだろう?」と繰り返し問い続ける。
この物語は、ある種のおとぎ話だ。マッチョで信念を持った男たちが正義を守るという、ハードボイルドでは使い古されたお決まりのテーマだ。陽気で下品な、コンピュータを自在に操る黒人老探偵。信念のために悪人を殺すこともいとわないという自警団精神。家庭と自分を守るために信念をつらぬく行動。歯が抜けたインチキ医者。良く考えたら、リアリティとはほど遠い。陳腐で独善的になりがちなキャラクタを、しかし作者はとても魅力的に描いている。キャラクタがあまりに魅力的なので「こんなヤツいるわけねぇよ」と言うツッコミを入れるのがばからしくなるくらい。ほんとうに、アメリカ南部に行ったら彼らに出会えそうな気がしてくるからふしぎなものだ。要は「ほんとうかどうか」ではなく「ほんものらしく、迫真に迫っていること」なんだと思う。
しばらく前に書評で目にとまり「ボトムズ」を読んで知ったランズデール。スティーブン・キングがなにか違う方向に行ってしまったいま、読み応えのある物語を書いてくれるひとだと思う。チェキっ!!

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