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2004年7月12日 (月)

ナゴヤ再訪

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7月9日から3日間、仕事で名古屋に行ってきた。
ナゴヤ。
高校を卒業してからの一年間、じつはナゴヤで浪人生活を送っていた。
なんではるばる名古屋まで浪人をしに行ったのかというと、単なる手違いでそうなっちゃっただけなんだけど。
そう言うわけで今回のナゴヤ、実に18年ぶりの再訪です。
19歳から20歳の、人生でいちばんせつない時期。ただのひとりの友達もできずに、たっぷりと孤独を味わった一年間でした。
18年前と言えば、1986年。バンドブーム前夜。
ストリートスライダースが大ブレイクし始めた時期で、シオンがラジオで「新宿の片隅から」と言う番組をやっていた。
まだバンドブームは始まっていなくって、バンドをやっている連中のワケの分からない熱気がそこら中にあふれていた。
シリアスで形而上的なバンドがいっぱいあった。
ヒットチャートではロックを気取った渡辺美里や中村あゆみが幅をきかせていた。
そんな時代。

高校時代につきあっていた一学年下の彼女がいたが、今ひとつ盛り上がらないまま彼女を置いて名古屋に出てきた。
電話代も高くて、直に話すこともできなかった。ナゴヤからぼくの地元に電話をかけると、あっという間に100円玉が公衆電話に消えていった。
面会室のたった一台の電話はTVのすぐそばにあって、おおぜいの浪人生がいつもだべっていた。
とても恋人と微妙なニュアンスの話ができる環境じゃなかった。
何通も何通も手紙を書いた。
だけど返事はろくに返ってこなかった。
そのうち友人から、彼女がほかの男性と仲良くしていると聞いた。
すぐにも飛んで帰りたかったけれどもちろんそんなことはできなかった。

寮の生活はとても厳しかった。
毎晩、寮長の見回りがあった。その時間に寮にいないと親元に連絡が入った。
寮の塀には鉄条網が張り巡らせてあった。
もちろん外敵の侵入を防ぐためではなく、寮生が脱走を企てないようにするためだ。
その証拠に、鉄条網は道路にではなく、内側に反り返っていた。
ナゴヤには母方の叔父夫婦が住んでいた。
だからどうしても見たいライブがあるときは、その叔父の家に外泊すると偽った。
もちろんライブが終わっても寮に帰るわけにはいかない。
栄の噴水公園で、朝が来るまでタバコを吸っていた。
深夜喫茶に入る度胸もなければお金もなかった。ポケットの中はいつも小銭ばかりだった。
真っ暗な夜が紫に変わり、やがて夜が明けていくのを見ていた。
先輩とつきあっている彼女のことを考え、ロックンロールのことを考え、自分の将来のことを考えていた。
良い考えなんてひとつも思いつかなかったけど。

18年ぶりに、その寮を見に行ってきた。
まわりの風景はずいぶん変わったけれど、寮のあるあたりはすぐに分かった。
臥薪寮。
たきぎの上に寝て復讐を誓う、すごい名前の寮だ。なんで受験が復讐なんだろう?
でも自分にとって受験は、あざ笑った高校の教師に対する復讐だったから、この名前はぴったりだった。
寮は、とっくにつぶれていた。
正確に言うと、半分は閉鎖されていて、半分の棟はどこかの女子大の寮になっていた。
ぼくが住んでいたラブホテル沿いの部屋は、封鎖された半分だった。
窓の外の手すりも非常階段も、ペンキが剥げて茶色い錆だらけ。
学生どころか、ひとの住んでいる気配はまったくなかった。
女子大の寮になっている部分もほぼ同様で、いずれ完全に閉鎖されるのは時間の問題だろう。
ふしぎなことに鉄条網だけは健在で、そこだけが18年前とまったく同じだった。
だれも住んでいない寮から学生が脱出するのを防いでいた。
あの疑いに満ちた目をした初老の寮長はどこに行ってしまったのか?

寮の目の前には赤茶けた線路が延びていて、夏の日差しを受けて焼けついていた。
その上を、けたたましい音を立てて地下鉄が通り過ぎていった。
それを見ていると自分の髪が長く伸びてきて、たすきにかけたかばんには予備校のテキストが詰まっているような気がした。
今池のロック喫茶に行けばまたあの子に会えるような気がした。
18年の歳月なんてなんの意味もないような気がした。
寮に続く坂道を駆け戻ればすぐに、自分の部屋と自分の名札が待っているような気がした。
うすい壁、四畳半。日に焼けた畳。
ぼろい学習机の上にはウォークマン、ミチロウ、じゃがたら、ジョニー・サンダース、パティ・スミス、ルー・リード。友部正人。
あのころの自由と不安な気持ちを、ぼくはこの写真を見るたびに思い出すんだろう。

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