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2004年6月 9日 (水)

こころに一匹の鬼を飼う

「上に立つ人間はね。こころに一匹の鬼を飼ってなくちゃいけないのよ」
ほほえんで彼女はそう言った。

きょうは昨日の一件のつづきです。

同僚のひとりはぼくよりも年上だ。
ぼくがいまの職場に来たのが4年前。彼はその1年あとに転勤してきた。
職場の中ではぼくが1年先輩だけど、職歴で言えば彼の方が大先輩。
ことし4月、その彼を飛び越してぼくが所属長になった。トップの指示だ。
うれしくなかった、と言えばウソになる。
率直に言って、とてもうれしかった。自分を評価してもらえたことに感謝した。よろこんだ。
ただ、大先輩の彼を飛び越して所属長になることには一抹の不安があった。
案の定彼とは、4月以降は必要最低限の会話さえ途絶えがち。それまではある程度気楽な会話もできたのだけど。
もともとものの考え方にかなり独特な面があって土日の仕事も頼みづらいひとだったんだけど、そういういきさつがあって4月以降は溝が深まるばかり。
土日の仕事は彼には頼まず、ぼくとトップで分担してきた。
彼としてはおもしろくなかったと思う。
ハブにされていると思っていたかも知れない。
ただぼくとしては、彼にお願いして断られるのが怖かった。実際今までも何度も断られてきたし、そのたびに一言居士的に、非建設的な意見を言われてきたから。
どうせ断わられるんだし、そのたびにイヤな思いをお互いにするのなら最初から頼まなければいい。
それで、いままでどうにかやって来れたのだけれど。

けさ、彼にいきさつを伝えた。
意外に、了承の返事が返ってきた。なんだ、やっぱり話せば分かるじゃないか。
ほっとしたのもつかの間。
斬って返された。
ぼくの担当日が固定されていて、そのほかの空いている土日を頼みます、というのがお気に召さないらしい。
そりゃそうだ。彼からみれば、そうだろう。
でも、本部の会議その他の日程を考慮すると、どうしてもそういう日程になってしまう。
決して傲慢で自分の日程を優先しているわけではない。

そんな反論がとっさに出てくるはずもなく、語気の荒さに気圧されて「す、すみません」と言うのがやっと。
そんな自分にも嫌気が差してきた。

胃が痛い。
たかがスケジュール調整。されどスケジュール調整。

まだ出勤して1時間も経たないのにぐったり。ふらふらと現場に足を運ぶ。

現場の主任にふと言ってみた。
こっちの部門は楽そうに見えるかも知れないけれど、ぼくだってたいへんなんですよ。気を使ってへとへとですよ。

彼女は言ったね。
「上に立つひとは孤独なものですよ。全員が納得する結論なんてあるわけないっしょ。上に立つひとが決断しないと、答えなんていつまでたっても出やしない。たとえ嫌われようとも、言うべきことは言わないと。まとめるべきところはまとめないと。上に立つひとはね。こころに一匹の鬼を飼うんですよ。いっぴきだけ。優しいだけじゃつとまらない。さっさと決断しないとやっていけない。そういう時にね、鬼を飼うんです」

その言葉でふっ切れた。森を抜けた。

彼の言い分、彼の論理にももっともな部分もある。
でも職場はあくまで仕事を優先するところ。
彼の休みを連休にするためにぼくやトップが自分の休みを返上したり、会議に出られないなんてことはできない。
みんなに負担が公平に行くようなスケジュール調整を目指すけれど、彼の言い分がすべて通るような調整はできない。ひょっとしたら彼の意見はまったく反映できないかも知れない。そしてどのような形であれ、最終的にぼくが提示する日程表に彼が満足することはないだろう。

こわい。
反論されたくない。いやみを言われたくない。
そう思うからこの話題には触れないようにしてきた。
でも、もういい。
ぼくもこころに、一匹の鬼を飼おう。
その鬼の力を借りて、職業人として、所属長として、言うべきことはきちんと言おう。伝えよう。決めるべきことを決めよう。
それで嫌われようと無視されようと大きい声を出されようと、鬼の非情さでそれを聞き流そう。

彼にとらわれ過ぎていた。
だから彼独特の論理と職場の常識とのあいだに溝を感じ、悩んだ。苦しかった。
いや、正直いまも苦しい。
でももうやめる。彼の言い分を無理に飲み込もうとは思わない。
なるべく全員一致を目指すけど、だめだったら仕方なし。それでごちゃごちゃ言ってきても悩まない。
だって、そこから先は彼自身の問題なのだから。
トップと意志疎通が取れないのも、良く分からないマイルールで休日を決めているのも、それと合致しないからと言ってぼくに言ってくるのも、彼自身の問題。
きっと彼自身、何らかの生きづらさを抱えているのだろう。
彼が棲んでいる囚われの森が何なのか、ぼくには分からない。
でももし彼が手を求めたら、その時が来たら迷わず手を貸そう。
でもいまはぼく自身、鬼の力を借りないともたない。
ほんとうに、このままじゃ自分がもたない。

いつか、また彼とも笑って話せる日が来るのかも知れない。
その時は、きょうの鬼の話をしていっしょに笑い飛ばすんだ。
その時が来たら。
その時が来たら。

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コメント

わたしも鬼を買おう。

投稿: おはな | 2004年6月10日 (木) 23:32

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