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2004年6月 5日 (土)

ブラックアウトとタイムマシン(2)

はじめて二日酔いを体験したのは14歳の時だ。
親が泊まりがけで出かけた友人の家で、しこたま酒を飲んだ。
カクテルが流行りだしたころで、ブルーハワイというやたら甘い酒をひとりでボトル半分ほど飲んだ。
トイレに座ったまま気絶して寝ているところを友人に発見され、ズボンもパンツもはいていないのを確かめ、死ぬほど笑い合った。
はじめてのブラックアウト。
深夜、べろべろに酔っぱらって自宅に戻り、親の目を盗んで自分のベッドにもぐり込んだ。
友人の自転車の荷台で、自転車の揺れが気持ちよく、それと同時に吐き気を感じたのを今でも憶えている。
そう、つい昨日のように憶えている。

翌日、体調が悪いと言って学校を休んだ。
どうして親が疑わなかったのか、いまでもよく分からない。
二日酔いでフラフラして気持ち悪かったけど、まるで風邪を引いたみたいに頭がグラグラするのがおもしろかった。
二日酔いで学校を休むのは、なんだかとっても悪いことをしているみたいでドキドキした。
その次の日はなに喰わぬ顔で登校した。
だれも何も言わなかった。

それ以来、同じような集まりが繰り返された。
友人のひとりは親が買い付けだか出張だかで家を空けることが多く、またもうひとりの友人は酒屋の次男坊だった。
飲む場所も飲むものにも困らなかった。

その夏、ぼくと友人たちは酒屋の次男坊の部屋に集まって、山下達郎大瀧詠一サムクックなんかを聞きながら、ビールやカクテルやウイスキーをしこたま飲んだ。
ぼくたちは5分刈りで、そこは古い酒屋の2階の6畳だったけど、みんなすっかり達郎の「FOR YOU」の鈴木英人のジャケットや、大滝詠一の「A LONG VACATION」の永井博のイラストの世界にいた。
涼しげな80年代のプールサイド、デッキチェアに寝そべってアイワの赤いラジカセから聞こえてくる音楽を聴いていた。
目の前には青いプールの水面と青い空が広がっていた。
そしてぼくたちは屋根に上り、近隣のかわら屋根を見下ろしながらビールを飲んだ。
空は青く、静かだった。
サム・クックは「もしきみがぼくを愛してくれたら、この世界はなんてすばらしいんだろう」と歌っていた。
1982年の夏のことだった。

ぼくが楽しくお酒を飲むことができたのは、それがほぼ最後だったと思う。

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